観念が人をつくる

2011.09.16

仕事術

観念が人をつくる

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

私たちは、日々遭遇する出来事や事実、体験によって自己がつくられていくと思っている。しかし実際自己をつくっているのは、出来事や事実をどうとらえ、どう心を構え、どう体験していくかを根っこで決めている「観念」である。降りかかってくる出来事を100%コントロールすることはできないが、観念をコントロールすることは可能である。

 例えば、
 ・「人は努めている間は迷うものだ」 (ゲーテ『ファウスト』)

 ・「僕の前に道はない。僕の後ろに道は出来る」 (高村光太郎『道程』)

 ・「指揮者に勧められて、客席から演奏を聴いたクラリネット奏者がいる。そのとき彼は、初めて音楽を聴いた。その後は上手に吹くことを超えて、音楽を創造するようになった。これが成長である。仕事のやり方を変えたのではない。意味を加えたのだった」 (ピーター・ドラッカー『仕事の哲学』)

 ・「他人が笑おうが笑うまいが、自分の歌を歌えばいいんだよ」 (岡本太郎『強く生きる言葉』)

 ・「勤勉なだけでは十分といえない。そんなことはアリだってやっている。問題は、何について勤勉であるかだ」 (ヘンリー・デイビッド・ソロー『ソロー語録』)

 ……これらの言葉を文字面(もじづら)で理解するのは簡単です。しかし、肚で読む(=観念に落とし込む)ことは簡単ではありません。しかも普段の仕事につなげて考えることも難しい。そのために、私は玩具の「レゴブロック」を使ってシミュレーションゲームをやったり、ドキュメンタリー番組や映画を観ながら討論をやったりします。
 研修づくりの方法論の観点から言えば、「その格言なら知っているよ」という知識を観念に変えていくために必要なことは、心が活性化している状態、もっと言えば魂が何かを求めて動き出す状態をつくることです。それは楽しく何かに没頭している場や、困難を受けて真剣に考えようとしている場を疑似的に設けることです。そこに普遍的で強い力をもった言葉をすっと差し出すと、敏感になった心の琴線に響いていき、沁みていきます。そしてそこから原理原則的なエッセンスを各自から引き出させ、現実の仕事、現実の生活にどう応用ができそうかを考えさせる───ここまでやって「知識→観念」の変換作業の半分でしょうか。あとは、実際、一人一人がそれを糧にいろいろな現実問題を乗り越えていってようやく自身の観念として肚に据わっていきます。

◆知識に肥えていても観念が痩せている
 3・11以降、私たちはメディアを通し、あの荒漠とした被災地でたくましく再起をはかる人たちの姿を数多く目にしてきました。
 南アフリカ共和国の心臓外科医であるクリスチャン・バーナードは、かつてこう言っています。─── 「苦難が人を高貴にさせるのではない。再生がそうさせるのである」。 (“Suffering is not ennobling, recovering is.”)

次のページどんな観念が支配的になるかで、個人の生き方も社会の様相...

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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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