某駅前に陣取って15年。2人の弟子を従えた「靴磨き職人」。彼は客の靴を見ると、自分が磨いた靴かどうかがすぐわかるという。 ※4月7日掲載の『「職人仕事」の話をしよう。』を新たな取材を元に加筆・修正しました。
客の靴を見て初めてかどうかを見極める。初めてなら、師匠が自ら磨く。2度目以降なら、弟子にやらせる。なじみの客でも靴を見て定期的に師匠が磨くようにする。そしてしばらくは弟子にやらせる。それが、“しくみ”の表面的な姿だ。
師匠がやっているのは「厚塗り」。クリームをたっぷり使って靴に刷り込む。「厚塗り」といっても、表面に付着しているのではない。前述の「炭素がダイヤモンドになるような圧力」で、革の中まで刷り込んでいく。しっかり刷り込まれたクリームは、徐々に表面に染み出していく。弟子たちがやることは、それを「削りながら、再度刷り込むこと」だという。すり込んだクリームが少なくなっているようだったら、師匠が「厚塗り」する。それが、“しくみ”のキモだ。
師匠は弟子と分業をするという「売れ続けるしくみ」を作っていたのだ。
「マーケティングとは?」を端的に表現すれば、「売れ続けるしくみ作り」である。単発で「売る」や、偶然「売れた」ではなく、誰がやっても、何度でも「売れ続ける状態」を作る。その「しくみ」を作ることこそがマーケティングなのだ。師匠は靴磨きのマーケティングを行っていたのである。
■「顧客志向」の靴磨きと「マーケティング2.0」
師匠と弟子が磨いた靴は、比喩表現ではなく空が映るまでに輝く。しかし、空が映るまでに磨き込まれた靴の仕上げも、それで終わりではない。
初めての客には「クリームが一度では奥まで入り込まないから、また1ヶ月もしたら来て」と客に再来を促す。
「靴磨きの仕事は“一期一会”じゃダメなの。お客の靴を見たら、その靴の状態を見極めて、どれくらいの回数で、どこまで仕上げられるか考えて磨いていかなきゃいけないんだ」と師匠はいう。
「ニーズとウォンツ」の関係を表す言葉は、セオドア・レビットが「顧客はドリルが欲しいのではない。穴を開けたいのだ」と表したとされている。そして、靴磨きにおいては、「顧客は靴を磨いて欲しいのではない。ピカピカの靴をはいていたいのである」だ。
そのために、師匠は「一期一会ではダメ」という。客の靴が今までどのような人が、どのような手入れをしてきていて、現在どのような状態にあるかを見極め磨き上げる。長期間にわたって客の靴をどう仕上げるかを考え、最適な状態を保てるようにしている。それは「顧客志向」そのものだ。コトラーのいう「マーケティング2.0」の状態だ。
■顧客と共に「靴のいい状態」を創ることと「マーケティング3.0」
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。