5月30日付日経MJに掲載された隣り合わせの記事。「リーガル」はカジュアルな商品を2009年から展開。「ローラアシュレイ」は駅ビルや専門店などに今期10店の小型店を出店。目的はどちらも「ターゲットの若返り」。かつて一世を風靡し、多数の顧客を囲い込んだ両ブランドが、「若返り」を賭けた模索をしている。
同紙コラム「ブランド深化論」によれば、リーガルの成功物語は日本の成長と時を同じくする。1960年代の「アイビーブーム」(若者のための注釈:アイビー‐スタイル=(和製語ivy style)アイビー‐カレッジの在学生の間に生まれた流行を取り入れた服装。肩パッドを入れないブレザーなどが特徴。1965年頃流行・広辞苑第7版)で火が付き、1980年代にかけて紳士靴の定番ブランドとなったとある。1965年生まれの筆者も父親からリーガル=しっかりしたいい靴と教えら、色気づいた頃に買うようになった。
支持基盤を確立して「定番」になるということは、経営的安定をもたらす。しかし、その一方で、「顧客は当時の若者層である40~60代に固定化してしまった」という。
顧客の固定化は2つの問題をもたらす。1つは主要顧客がファッションに対する関心を徐々に失っていく世代であるということだ。購買頻度が低下する。もう1つは、60代が定年を迎えた時に、「定番ビジネスシューズ」として購入していた場合は、「もっと歩きやすさに特化した靴がほしい」というようなニーズによってブランドスイッチされる危険性があることだ。「顧客は歳を取る」という冷徹な事実。その時、ブランドはどうあるべきなのか。リーガルの答えは「若返り」だ。2002年にデザインや色などを若者向けにしたシリーズを積極展開し、2005年にカジュアル靴専門部署を設置、2009年には専門店を開いた。
記事では同社幹部が「50年かけて築いた『丈夫で長持ち』というブランドの価値は変わらない」と述べている。その価値の上に、カジュアルでオシャレという新たな価値を付加する挑戦をはじめたのだ。
同紙の隣には「ローラアシュレイ」の新型店舗の記事が掲載されている。
カラフルなプリント布地を特徴とした衣料品・家庭用品のブランドで、1953年公開の映画『ローマの休日』で、主演のオードリー・ヘップバーンが同社のヘッドスカーフを用いたことでブレイクし、1960年代の終わり頃、プリント布をふんだんに使ったロングスカートがミニスカートからの流行の変遷にヒットし一斉を風靡した。日本でのローラアシュレイの展開は1985年に東京・銀座に第1号店がオープンしたのが最初だ。1980年代後半にトレンディードラマに多数出演した「ダブル浅野(浅野温子・浅野ゆう子)」のロングスカートスタイルを模した女性に大いに受けた。
しかし、流行は変遷する。誰もがロングスカートをはいたままでいない。実にその後、ミニブームが起こった。昨今、再びロングブームが来るといわれているが、そうだとしても誰もが同社の花柄のプリントを欲しがるわけではない。お気に入りの花柄で部屋を飾ろうとするわけではない。
新型店舗の戦略は従来と全く異なる。小型店で得意の衣料品や家具を扱わずに、25~35歳前後の女性に人気の雑貨で勝負する。「客単価は2500円前後と、家具なども含む通常店の雑貨部門に比べ4~5割低いが面積あたりの売上高は約2倍」だという。
同社の資産は「ブランドの特徴である花柄」であり、「それを活かしたレターセット、手鏡など化粧関連雑貨、傘、スキンケア用品」などの新型店専用品を開発するという。ブランドイメージの根幹は何かを見据え、ニーズのあるカテゴリーの商品に軸足を移していくというチャレンジが見て取れる。
2005年から人口の縮小が始まり、もはや拡大が望めない日本市場。ともすると、細る需要に失望し、囲い込んだ自社の顧客基盤に安住して変化することを怠ってしまいがちだ。しかし、しっかりと時代の変遷、顧客ニーズの変化や新たな顧客層の台頭に目を光らせ、「アンチエイジング」の努力を怠らなければ、ブランドは輝きを失うことはない。ブランドの根幹となる価値は何なのかを明確にしながら、新たな価値創造を欠かさないことが求められる。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。