ファミレスが相次いで変身を遂げているという。それは「選択と集中」の結果。数多くのメニューを多様な顧客に適合するようにと「選択」はしてきたものの、「集中」を欠いていた業界がいよいよ生き残りをかけて「集中」するために、「捨てる」勇気を振り絞った。
極端な事例としては、とんこつラーメンの「一蘭」がある。カウンターの座席は両隣とパーティションで仕切られ、厨房側も赤いのれんで閉ざされている。特許出願中という「味集中システム」だ。ラーメンの味は確かだが、そのシステムは賛否両論。しかし、「食事の際の雰囲気」にこだわる客を捨て去り、「美味しいラーメンに没頭して食べたい」という熱心なファンを同社は確実に押さえ、高いリピート率を実現しているという。
「味」だけで勝負するのが戦略ではない。5月27日付日経MJのコラム「食ビジネス考」に興味深い事例が掲載されていた。富山県黒部市の洋食店「レストラン&喫茶 ジェノバ」という店だ。大手外食チェーンの攻勢で右肩下がりだった売上がある工夫で大幅な反転攻勢に転じたという。その工夫の1つが「マンガ本」だ。集客に悩む平日の夜に「食事を摂りながらマンガを読みたいという20~40代の男性客」を600冊超のマンガ本を店内に設置して取り込んだ。メニューもマンガを読みながら食べやすいように、ハンバーグをあらかじめカットするなど改良。若い男性の「味が薄い」という声に応えてうま味調味料の使用量を増すなどの変更も行い、看板メニューとなったという。
あらかじめカットされた濃い味のハンバーグを、右手のフォークで口に運びながら、左手でマンガのページをめくる一人客が何人かいる店内。同様のニーズを持った顧客以外はちょっと入りづらい。しかし、その時間帯のメインの集客層以外にも受けるサービス・商品をと考えて、一般的なものを提供すれば、顧客は離反する。
ターゲットを絞るということは、それ以外を「捨てる」行為である。消費者の行動や嗜好が多様化した昨今、「誰からも愛される店」はもはや幻想に過ぎない。「捨てる勇気」を持つことも、生き残りの条件だ。ファミレス各社の新業態店は、どこまで「捨てる」展開を行うのか、しっかり見定めてみたい。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。