1日約32万人もの乗降客が行き交うJR東日本の品川駅には山手線、京浜東北線、東海道線、横須賀線と新幹線5路線が乗り入れている。山手線は実は品川が起点駅となっていたりするのだが、そのホームはとりわけ人がせわしなく乗り降りしている。そんなホームの片隅、駅のコンコースに上がる階段の下に、ひっそりと建っている立ち食いそば屋がある。
ポイントは、あくまで「立ち食いそば」のメニューであって、さらに店舗は駅、しかも駅ナカ商業施設の「エキュート」に隣接したコンコースではなく、山手線ホーム上にあるということだ。好立地なコンコースなら、単価を上げねばならないだろうが、ホーム上の階段下という立地なら、同じ利益率を目指しても地代より原材料に原価がかけられる。よりボリュームが出せる。
そのボリュームメニューを求める客。それは、コンコースで移動中ながら一息ついて食事をしたくなった客とはニーズが異なる。ホーム上で電車を1本見送って食事を摂ろうという行動が想像できる。1つの明確なニーズは「時間短縮」だ。それだけなら「かけそば」でもいいのだが、他にも「手軽なワンコインで、夜まで腹持ちする食料(←“食事”ではない?)を胃に納めたい」というニーズが存在するだろう。故に、つまり、多少メニューとしてのバランスを欠いていても、「とにかく手っ取り早く、安く、ボリューミーに!」という、ターゲットのKBFを押させているわけだ。
どこにでもある立ち食いそば屋。どこにでもあるが故に、利用客はその駅で食べなくとも他の駅でもいいし、牛丼屋で代替してもいい。そのため、そこに並べるメニューは想定するターゲットと充足させるべきニーズ、KBFを見据えなければならない。
商品(Product)だけではない。ワンコインという手軽な価格(Price)を設定し、ホームという立地(Place)を活かし、目を惹くインパクトのあるポスター(Promotion)を掲出するという、一連の「マーケティングの4Pの整合性」と「ターゲットニーズとの整合」を実現しているのだ。
何気なく目にするホームのポスターから、しっかりしたマーケティング戦略が学べる時もあるのである。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。