サントリーが復活させて市場に定着させた「ハイボール」。次なる戦略はどこに向かうのか?
よーく冷やして、喉ごしのよさを味あわせるという手法は、考えてみればビールとよく似ている。酒好き、ウイスキー好きにとっては、熱い塊となって喉から食道を通って胃の腑に滑り落ちるウイスキーの感触が何ともよいのだが(←書きながら禁酒中の筆者は思わず感触を思い出し悶絶している)、やっとハイボールでウイスキーに慣れた初心者にはまずは喉ごしだ。
アサヒビールの「スーパードライ エクストラコールド・バー」をおぼえているだろうか。2010年5月21日に東京・銀座にオープンし、連日行列を作った店だ。人気のヒミツは、「氷点下の温度帯(-2℃から0℃)のアサヒスーパードライを飲める」ということ。ビール愛好家にとっては味がわからないくらいにキンキンに冷やしすぎはNGだ。喉ごしと共に鼻腔に広がる香り(←再び悶絶)が楽しめなくなるからだ。しかし、アサヒの狙いは「若者のビール離れ対策」であった。故に、「エクストラコールド」を開発し、少々狭すぎる店に行列を作らせ人気を醸成し、アンテナショップとしての役割を終えた同店を閉めてから、専用サーバーを各料飲店に広めていったのだ。現在では「エクストラコールド」を楽しめる店は順次増えている。
サントリーの場合、超高性能サーバーの展開は、「サントリーがハイボールにあうフードメニューや店舗デザインの企画、従業員の教育まで」(同)請け負った店だという。そして、サントリーは店舗から「フランチャイズチェーン(FC)と違い加盟店料やロイヤルティーなどは一切とらない」という太っ腹具合である。そのワケはとりもなおさず、目的を収益ではなく、角瓶だけでなく他の銘柄のウイスキーを消費者に体験させ、拡販することに置いているからだ。
専用超高性能サーバーの展開は、消費者に体験を広げるためだけであれば、多数あるサントリー系列の料飲店から始めればいい。しかし、そうしない点から消費者に向けた狙いだけでない側面が伺える。系列での展開はいわば「閉じた世界」だ。他企業資本の店舗で成功すれば、「ぜひ我が社の店舗にも」ということになり、大きな広がりが期待できる。
専用超高性能サーバー設置1号店は1月に東京・新橋にオープンしていて、「売り上げは計画比で50%増のペースで推移している」というから、恐らく各社からのオファーも数多く舞い込んでいるに違いない。しかし、現在のところサーバーは手作組み立てで大量生産はできないと記事にある。より、料飲店にとって希少性が高い存在になっていることだろう。
ウイスキー、酒類に限らず、企業やマーケターは様々な仕掛けによってブームを起こすことを狙っている。しかし、問題はその後なのだ。いかにブームを一過性のものにせず、定着させるか。そして、その仕掛けたブームの裏側にある真の目的を達成するかである。サントリーの、まさに深謀遠慮ともいえるハイボールと、今回の超高性能ハイボールサーバーによる息の長い取り組みからは学ぶべきところが大きい。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。