東北関東大震災からちょうど1ヶ月が経った。テレビCMから花見までに広がる「自粛」。その後顕在化した福島第1原子力発電所事故の影響と、経済はマイナスのスパイラルに突入しているように見える。どこかに突破口を見つけなければならない。そのヒントを探ってみたい。
4月11日付・日経MJに掲載されたコラム「ブランド深化論」には、レナウンの百貨店向け婦人服ブランド「チャージ」の事例が掲載されていた。同ブランドには「“リーマン・ショック”の影響で財布のひもがまだ固かった時期にもかかわらず、2009年秋冬頃から目立って売れるようになった」という商品がある。「シャツなどの上に羽織るベスト」だ。「翌10年の春夏には売上が前年同期の2.3倍、同年の秋冬も同1.5倍と拡大が続く」状態だというから驚きだ。ベストは顧客の買い上げ点数に貢献し、1人あたり「平均1.7~1.8点と、その前と比べ0.5点も上昇」。客単価も連動して向上し、「低価格専門店などとの競争激化で続く百貨店の来店・購入客数の低迷をカバー」しているという。
震災前の事例であるが、2009年といえば「失われた10年(1993年~2003年)」という言葉が、リーマン・ショックに端を発する経済危機を受けて「失われた20年」と言い換えられるようになった時期である。消費が低迷している中で「ベスト」という商品に注目してブランドの売上げを伸ばしたのだ。
ポイントは「不況下ならではの提案」であるとコラムは分析する。「服を買う予算が限られるなか、店を訪れた客が買っていくのは価格が手ごろなTシャツやシャツ、ブラウス類が中心。それにベストを組み合わせるだけで“着こなしにアクセントを付け、印象を変えられる”」と、商品政策担当者もコメントしている。
「顧客はドリルが欲しいのではない。穴を空けたいのだ」。
ハーバード大学ビジネススクールの教授セオドア・レビットの有名な言葉である。これは「ニーズ」と「ウォンツ」の関係をもっとも端的に説明した言葉だといえよう。顧客は現状に対し、何か実現したい理想の状態を求めている。そしてそこにギャップが存在する。それが「ニーズ」だ。そのギャップを解決する「対象物」として求められるのが「ウォンツ」である。
レビット教授の言葉に習えば、「顧客は服が欲しいのではない。装いを新しくしたいのだ。」となるだろう。
ファッションという「果実」を味わった者は、昨日も今日も同じ服の「着た切り雀」でいることはできない。だからといって、多くの消費者は無制限にニーズを充足すべく、ウォンツを求め続けることは経済的な制約条件でできない。故に、手持ちの服の着方を変え、コーディネートに工夫を凝らす。それでもニーズが充足できない時、新しい服を買う検討をする。しかし、「不況」は制約条件を厳しくし、ウォンツに手を伸ばしにくくする。それを「チャージ」は、「ベスト」というウォンツを提案してハードルを下げたのである。それは、「ジャケット」や「ブルゾン」などの値の張る、いわゆる重衣料でなくとも「装いを新しくしたい」というニーズに応えられると消費者の心理を読み切ったからである。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。