日本経済新聞の記事によると、ファストファッションの「フォーエバー21」は無料スタイリングのサービスを、新規オープンする「ららぽーと横浜店」で実施するという。同社の戦略意図はどこにあるのだろうか。
調査結果はフォーエバー21にとってはゆゆしき自体ではないだろうか。新店の重要顧客は原宿・渋谷よりもターゲット年齢が高いと思われるからだ。本来ならば購買余力が大きいその層が、手控えてしまうのだ。何らか、「買いたくなる魅力的な仕掛け」が必要である。
もう1つ、同店には年齢が高い層には購入を躊躇する理由が存在する。それは、展示と接客の方法だ。同社はH&Mなどと同じ「ファストファッション」と呼ばれる流行のデザインの服を安い価格、それなりの品質で提供するという存在だ。単価が安いため、店内の商品展示スペースは圧縮されている。百貨店やブランドショップ、セレクトショップでおなじみの服をたたんで平面に展示するのではなく、ハンガーに吊り下げての展示である。さらに変動費として最も高い人件費も抑制する。店員は基本的には接客はしない。安価な故、高回転で売れていく商品を在庫補充する「品出し」が業務の多くを占める。
狙いたいターゲットの購買意欲を高め、購買を躊躇する阻害要因を払拭する「仕掛け」が、「無料スタイリング」なのだ。
もちろん、ターゲティングを年齢だけでするのは正しいことではない。なぜならば、年齢に関係なく同質な「ニーズ」を持ったセグメントがあれば、そこがターゲットとなるからだ。例えば、若者層にも「(ファッションで)失敗したくない」というニーズから、いわゆる「コーデ買い(コーディネート買い=一式丸ごと)」する層もいる。だとすればそこも十分「無料スタイリング」のターゲットとなり得る。しかし、「インターネットや電話で事前に予約」という行動をする層はあまり多くはなく、そうした能動性はいままで百貨店などで「接客慣れ」をしてきた年代に多いのではないかと推測できる。
事前予約はフォーエバー21にとっても自社のリソースの有効活用という意味でも有効に作用する。前述の通り、同社の店員は日常の業務からすれば、接客に慣れているわけではない。すべての店員がアドバイスを行うという高度標準化されたスキルを持っていないのだとすれば、限られたリソースに優良な見込み客をいかにマッチングさせるかが売上を高めるカギとなる。「自ら事前に予約する」というハードルを設けることで、販売効率を高めることが可能となるのである。
価格に対するデザイン性の高さという価値で、大量に作って店頭に並べれば高回転率で売れていった「ファストファッション」という業態。しかし、震災にともなう景気の一層の悪化と業態自体のプロダクトライフサイクル(PLC)の成熟化によって、「黙っていても売れていく」という環境ではなくなった。優良な見込み客にターゲットを絞り、戦力を集中するという今回の取り組みは、ファストファッション業態のあり方に一石を投じることになるだろう。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。