企業がITに期待した「効率化」。なぜ期待とは逆に、余計に忙しくなってしまったのか。
他には、メールやイントラネットの情報共有機能(掲示板やSNS)によって、「関係者が増加し、反応に手間がかかる」ようになりました。いわゆる報連相がそれらで簡単にできるようになったので、ちょっとしたことでもとにかくモレがないように、多くの人に知らせておこうといった行動が増えます。そうしますと、様々な立場の人がGOODからNGまで色々な反応を寄せてきます。それらを無視する訳にはいかないので、反応を返さねばなりませんし、さらに調整したり、まとめたりといった作業があればこれは大変です。情報共有や意見交換は大切なことですが、少ない関係者でササッとやっていた時代にはなかった、多くの人との間で発生しているやりとりは物事を進める際の効率を低下させることになります。(関わる人が多くなって結果も良くなったのであれば、いいのですが・・・。)
「提案書はパワーポイントで」というのも、効率を低下させている勘違いです。営業用資料や提案書は、すっかりパワーポイントで作るものだということになっていますが、構成や文言や見た目など、似たようなものだらけ。パワーポイントは、トークで補完することを前提とした「見せる」ツールなのでしょうが、話で上手に説明・補完するのかと思いきやそうでもありません。10枚資料があるけども2枚くらいでいいのではないかと、ほとんどの場合で感じてしまいます。そうでないなら8枚の無駄を生み出す効率低下ツールとしか言えません。プロジェクターでスライドショーを見せられても、慣れてしまっているので今や誰もインパクトを覚えませんから、実質的にはパワーポイントの機能に遊ばれている状態です。
インターネットによって、一つのことに集中している時間が減った可能性もあるように思います。私もそのようなことがあるので分りますが、検索している間にあちこちに関心が行ってしまい、色々なページを見ている間に時間が過ぎていったり、集中力が落ちたり、目的を忘れてしまったり、ひどい場合には何をしていたか忘れていたりするといったことを多くの人が経験していると思います。ふと疑問に思ったり、知らないことがあったりすればすぐに検索する、そして頻繁に関心が他に飛んでしまうと、集中している時間が細切れになってしまうので仕事が遅れがちになります。まとまった時間に集中して進めるのと比べれば、時間の使い方として効率が悪くなります。
色々な手続き書類の増加が、現場の効率を落としているという現実も、間接的にIT化が影響していると言えます。管理部門には、何だかんだの書類の発送や回収や集計をシステムやメールを使って楽にできるようになったというIT化の恩恵があります。作業が楽になったので、管理部門はどんどん書類を作っても平気ですが、提出させられる方は大変です。あるいは、入力作業のような管理部門がやっていた作業を、システムの導入によって現場でもできるようにしたので、現場で自分たちがやってくださいということもあるでしょう。そうやって現場では、付加価値を生む時間が削られていくので、効率は低下の一途となります。
こうしてみますと、IT化は定型的な業務に関わるコストを効率化することには貢献したかもしれませんが、上のような状況を生み出してしまったことで、企業・組織全体として効率を大きく落とすことになった可能性が高いのではないかと考えます。論理的に示すことはできませんが、少なくとも「昔よりも忙しくなった」という多くの人の実感とは合致するはずです。
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2010.03.20
2015.12.13
NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。