「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングが、傘下の「ジーユー」で新展開を始めた。その戦略意図と課題はどこにあるのだろうか?
3月11日付・日経MJ掲載された記事には、「ジーユー 女性衣料 “ビーアガール”投入 流行入れ短期売り切り」とある。全130店で「流行の衣料を毎週少量ずつ投入し、約2週間で売り切る方針」とある。同紙にもある通り、ベーシックな商品ラインナップを展開する「ユニクロ」と棲み分けである。
ジーユー(g.u.)は2006年に10月に第1号店が東京江東区のダイエー南行徳店内に開店し、現在130店舗を展開。200店体制に向けて開店のピッチを上げている。しかし、立ち上がり時点では売れ行きがままならず、出店スピードも思ったようにあがらなかった。その原因は、記事中でファーストリテイリング傘下の運営会社・GOVリテイリングの柚木社長がコメントしている。「当時の価格はユニクロの約7割と中途半端だったうえ、外部企画商品の多用でブランドの統一を欠いていた」とある。商品の高回転率を基軸とした戦略は、それを実現するバリューチェーンが整合していなかったのだ。
アパレルのバリューチェーンはざっくり以下のようになる。
[デザイン]→[調達・製造]→[物流]→[店舗販売・オペレーション]
柚木社長のコメントにあるように、2006年当時のジーユーはユニクロと同様な、SPA(speciality store retailer of private label apparel:企画製造小売業)ではなく、上流工程を外部企業に依存していた。
転機は2009年の「990円ジーンズ」の発売である。「中途半端」だった価格を「ユニクロの半分程度」として低価格化を強化したのだ。それを可能としたのは、外部企業依存を改め、SPA化したことによる。
日経MJヒット商品番付にも載ったように、990円ジーンズは大ヒット。ジーユーも勢いに乗った。しかし、代償も小さくなかった。
記事には「安い定番商品は強力な武器だが、これだけでは単なる“ユニクロ廉価版”になる懸念があった」とあるが、市場の声は「ユニクロとの区別が付かない」ともっと厳しい。
「区別が付かない」というのは非常に危険な状態だ。
ファーストリテイリングの柳井会長は2009年6月2日の990円ジーンズ・製品発表会で述べている。「ユニクロはナショナルブランドの商品と比べても品質は高いが、最低価格では提供できない。まあまあの品質で低価格のものを求める人はジーユーでお願いしたい」と。
柳井会長が示したユニクロとジーユーの違いは明らかに「品質」である。今後、出店攻勢を強め、ジーユーの商品・店舗が市場に広まって「ユニクロもこんなもの」思われるのは避けたいところだろう。そこで、グループ内での「棲み分け」が必要となる。
その切り札が、「ファッション性を高めること」、つまり、SPAのバリューチェーンをもって、「まあまあの品質でオシャレな服を安く」実現することなのだ。
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2015.08.26
2015.09.03
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。