GAPの新たな動きといえば、何といっても本日、3月3日に東京・銀座数寄屋橋近くの一等地に国内最大の売り場面積を持つ旗艦店を開店することだ。さらに3月2日付・日本経済新聞によると「米ギャップ 日本でも低価格店」と傘下の低価格ブランドを、日本市場で展開する可能性を日本法人・ギャップジャパンの社長がコメントした。その狙いと背景を考察してみよう。
その戦いの中で、GAPはどのような存在になっていたのか。アメリカンカジュアルの代表的なポジションを獲得してはいるものの、台頭してきた後発のユニクロやファストファッション勢によって、ある意味無難で失敗のない「そこそこの価格で、ほぼ妥当な価値のもの(中価価値)」のポジションに押し込められてしまったといえるだろう。
GAP復活のカギは、まず、バリューラインを飛び出すことだ。製品そのものの価値を高めすぎると、採算の問題だけでなく、同じ傘下の高価格ブランドとして約30店を展開している「バナナリパブリック」とカニバリゼーション(共食い)を起こすことになる。そのため、店舗としての商品やコーディネートの提案などでファッション性という価値を高めることが考えられる。そうすることによって、ファストファッション勢と伍して戦うこともでき、また、ファッション性を高める方向がうまくいかずに「ベーシック回帰」に転進したユニクロとも差別化ができるようになる。「中価格なのに価値の高いもの(高価値戦略)」というポジションの再定義をする戦端を開くのが、銀座の新旗艦店なのだと考えられる。
では、日本経済新聞にある「米ギャップ 日本でも低価格店」はどのような意味を持つのか。
低価格店とは、「オールド・ネイビー」のことだ。記事には北米地域で1000店越えを展開し、GAPブランドに比べて約半額程度の商品も多いとある。このブランドを展開することで、バリューライン上の「低価格なのに中間価格と同等の価値のもの(グッドバリュー戦略)」というポジションを埋めにくるものと思われる。特にユニクロの姉妹ブランドであるg.u.とも戦えることになる。
ここまでの「バリューライン」に関する論述で、「低価格なのに高価格のものと同等の価値のもの(スーパーバリュー戦略)」のポジションは誰が取っているのかと思われるかもしれない。しかし、そのポジションは現実的にはなかなか取りづらい。
ファーストリテイリング傘下のジーユー(g.u.)が、低価格な価格戦略明確化した象徴的な商品は990円ジーンズだ。2009年の日経MJヒット商品番付にも掲載された。2009年6月2日の製品発表会で、柳井会長は次のように発言している。「ユニクロはナショナルブランドの商品と比べても品質は高いが、最低価格では提供できない。まあまあの品質で低価格のものを求める人はジーユーでお願いしたい」と。つまり、ユニクロは「高価値戦略」、g.u.は「グッドバリュー戦略」で棲み分けるという構図である。
消費者に「価格を上回る価値」を感じてもらうための「バリューライン」を超える戦い。GAPが旗艦店展開で店舗力を高め、低価格ブランド進出の機会をうかがうことで、ファーストリテイリング、ユニクロとの戦いは本格化するだろう。その戦いがどのような様相を見せるのか目が離せない。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。