ソフトバンクの「-÷×+」のマーケティング

2011.02.08

営業・マーケティング

ソフトバンクの「-÷×+」のマーケティング

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 ソフトバンクが「ボタン1個の携帯」を3月中旬から発売するという。(2月6日付・日本経済新聞)。記事の見出しには「子ども・高齢者の安全対策用 基本料、月490円」ともある。

 分解した結果の細かいターゲット層は、各々どの程度の顧客化できる可能性があるのか、「確率」という「かけ算」をする。例えば、まだ携帯を持たせていない小学生の親を対象に調査を行なって、その購買棄却理由を明らかにする。そして、その理由毎のカタマリ(セグメント)に絞り込んだシンプルな機能を提示して、購入意向度を聞く。そうすると、最も効率的に取り込めるターゲット層が浮かび上がってくるのである。
 「割り算」して取り込めるターゲット層を絞り込むと、その総和は少なくなる。「ターゲットを絞り込んだら数が少なくなる!」と幅広にする例が散見される通りだ。しかし、それは大きな間違い。「ターゲット層を設定すること」と、実際に「ターゲットを顧客化できること」は違うのである。異性に勝手に惚れ込んでも、実際につきあえるようになれるわけではないことを考えれば自明の理である。悲しいことだがそれが冷徹な現実だ。そこで、「かけ算」なのだ。

 シンプルな機能で効率的なアプローチを狙う「みまもりケータイ」には、もう1つオイシイ「足し算」が残っている。

 ニュースリリースの1つに記述がある。
 <「みまもりケータイ005Z」、社団法人日本PTA全国協議会の推薦商品に認定>(2月7日付)
 http://www.softbankmobile.co.jp/ja/news/press/2011/20110207_01/index.html
 <※3検索側の保護者の携帯電話は、位置ナビ(210円/月)およびS!ベーシックパック(315円/月)にご加入いただく必要があります。>
 つまり、子どもがどこにいるのか、位置情報を使った検索を行なうにはソフトバンクの携帯が必要なのだ。これは機能的に仕方ないし、当たり前なことかもしれないが意外な落とし穴ではないだろうか。「おっと、うちはdocomo(au)だ!」というケースだ。
 しかし、「この際、スマートフォンを契約して、2個持ちにしちゃおうか!」と思う親も出てくるだろう(注:Android機種に限る。iPhoneからは検索機能が正常に働かないとのこと:カスタマーセンターに確認)。スマートフォンを新規ユーザーの多くが既存の携帯を残して購入するという実態からも考えられる話だ。子どもに持たせようと思って、親も付いてくる。何ともオイシイ「足し算」ではないか。

 ソフトバンクの昨年の契約純増数は前年比63%増、の約273万件。docomoの約177万件、auの113万件と比べブッチギリ状態。3年連続のトップだ。しかし、昨年12月末のシェアは20.8%と第3位のチャレンジャーであることは変わりなく、「クープマンの目標値」で考えても影響力を持ってトップも狙える「市場的影響シェア(26.1%)」にはまだ一歩届いていない。スマートフォンもAndroid機種を他キャリアも充実させてきた。iPhoneでガバガバと純増を取るのではなく、緻密な戦略も展開しているのだ。
一見地味な「-÷×+」という「四則計算戦略」には学ぶところが大きいといえるだろう。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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