景気に明るさが見えてきたとはいわれるものの、デフレ環境に代わりはなく、むしろその圧力は増している。その中で、サービス業の値下げや利用料金低下が顕著になっている。
フィットネスクラブと同じく自習室も「箱物」である。企業側の背景としては、空気を座らせておいてもお金にならないため、プランを細分化して利便性を上げ、入会のハードルを下げているのである。アカデミーヒルズの自習室は料金を曜日で分け、記事にはないが利用時間制限を撤廃し、さらに座席の予約制だけでなく自由席も併設するという改訂を行なっている。これは、利用者にとっては使い勝手が向上する、顧客視点に立った「良い値下げ」であるといえるだろう。さらに、新入会員に効率的な利用法のアドバイスなどをして、利用率を一定に保ち離反を防止すれば、新入会員を獲得・補充するというコストも低減できることになる。
「良くない値下げ」とは何か。それは、顧客視点というよりも、企業にとって「ヤバイ値下げ」だ。前掲のように売上=客数×客単価である。客数が減る。仕方なしに料金値下げを行なう。客が増えない。売上げが低下するというパターンだ。
積極的に客単価を下げない場合でも、顧客のリピート率を勘案すると結果的に客単価が低下していることになる場合もある。美容室業界が顕著だ。来店間隔が延びる。パーマやヘアカラーを毎回ではなく、カットだけの時と交互に利用するようになってしまうなど、顧客の利用形態が変化して、結果として年間の利用金額(売上)が低下してしまうのだ。記事にある、「顧客1人が1回の利用で支払う料金の客単価が下落」とは、その一連の現象の一部であるといえる。
では、どうすればいいか。既出の他の例と異なり、美容業界は顧客に対して1対1でサービスを提供する点に大きな特徴がある。だとすれば、そこで提供するのは単なる「作業」ではなく、「顧客がなりたい自分に近づくためのサービス」であるといえる。そのために、カウンセリングなり、コンサルティングをキッチリと行なう。その結果として、パーマやヘアカラーの提供や、各種用品の販売が実現して客単価が向上するという好循環が生まれるはずなのだ。当然、顧客との信頼関係醸成によって、離反防止にもなり、来店頻度向上も実現する。
「値下げ」をするのは、単に数字をいじるだけでできる。しかし、値下げすると、どのような影響が起きるのか。本当に売上げと利益向上(もしくは、維持)に貢献するのか。そもそも、自社のビジネスモデルはどのようなものであるのか、といった要素を十分に検討することが重要なのである。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。