「トイカメラ」人気から学ぶべき「価値基準の変化」

2011.01.11

営業・マーケティング

「トイカメラ」人気から学ぶべき「価値基準の変化」

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 今日の不況は、デフレに起因して価値基準が変化し、一義的な問題として消費者が「モノを買わなくなった」ことにあるといわれている。しかし、「成熟市場」といわれる商品カテゴリーにおいてさえ、売れているモノもある。そこから何を学び取るべきなのか。

 全てを事前に、自らコントロールできるようになった今日のカメラ。そこに「失敗」の二文字はない。「意外性」の三文字もない。
 トイカメラの流行は、利便性と確実性という方向に極端まで振り切った今日のカメラに対する反動であると解釈できる。それは、カメラの流行だけではない。モノゴトは、一方に振り切った時にはその反動が出る。2007年に「メガマック」が人気を集め、2008年頃には牛丼、コンビニ弁当、カップ麺など様々な食品に飛び火した「メガブーム」は、それまでの健康志向の高まりや2008年度から法制化された「メタボ検診」などへの反動的需要であるともいえる。
 次のブームを読むには、一つの方向に振り切った状態を見つけ、その反対方向を見るのだ。

 トイカメラには、そのデジタル版の「トイデジ(トイデジカメ)」というものもある。液晶画面がなく、データをPCに移すまで仕上がりが判らないというものもあり、手軽に「ワクワク感」を楽しむこともできる。しかし、そうした簡便なものよりも、あくまで「フィルム」にこだわり、「トイカメラ」にこだわるファンも多い。そうしたファンは、iPhoneのカメラをトイカメラ風に画像を加工できるアプリなどもあるが、目もくれない。
 トイカメラのファンは、そもそもカメラに求めるニーズや中核価値が違うのだ。カメラは「ありのままを写しとる」ための手段ではない。作品を作るという「コト」を楽しんでいる。トイカメラを購入して撮影し、フィルムの現像・焼き付けを依頼して仕上がりを待つという一連の行為にまつわる「非日常的ワクワク感」を購入しているのだ。
 
 2008年以来自転車ブームであり、「自転車通勤」も脚光を浴びている。自転車に乗ること、それで通勤することという手段が目的化している。自宅の片隅で起きっぱなしになっている高価な自転車も少なくないだろう。ブームを一過性のものにしないためには、サービスの提供が足りない。
 「ロモグラフィー・ギャラリーストア・トーキョー」の売り物の一つは、フィルムの穴の部分まで使って撮影したフィルムにも対応するなどの、様々な形態での焼き付けサービスだ。もう一つが、月に数回開く撮影テクニックを学ぶイベントや撮影会。参加資格は「写真に少しでも興味のある人」であり、カメラの貸し出しまで行なうという。

 流行の兆しをつかむ。それを一過性の流行に終わらせない。そのためには、言い古された感もある「モノからコトへ」「モノ売りからサービスの提供へ」という言葉を真摯に追求してみる必要があるだろう。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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