景気低迷による求人数減少という問題でなく、学生の就職内定率低下という問題でなく、その奥底に進行する「働くことを切り拓く力」の問題について考える。
私は何か不思議な生き物と遭遇している気分になった。厳しい言い方だが、経営者の目線に立ったとき、私自身、彼らを雇いたいとは思わなかった。こういうことをつらつらと書いて、私は彼らを貶める意図はまったくない。伝えたいのは、意欲をどう湧かせたらいいかがわからない生き物を平成ニッポンは社会全体としてつくりだしている事実である。
意図して怠けている者に対し、意欲を湧かせるのはむしろ簡単なことかもしれない。いま問題なのは、素直で従順で、できれば頑張りたいと思っているのだが、どう意欲を湧かせていいか分からない人間に対し、意欲を湧かせることなのだ。きちんと職に就いて働きたいと真面目に思っているのだが、何をどう真面目に自己を活かして働くことができるか分からない人間に、職を与えなければならないことなのだ。
◆問題の根っこは「働くことを切り拓く力」の脆弱化
昨今、学校現場においても企業現場においても、「キャリア教育」の重要性への認識が拡大しはじめている。もちろん新しい教育分野なので、あちこちでまだまだ試行錯誤が続いている(私もその一人だ)。
現状をながめるに、多くのものがどうも対症療法的なアプローチであったり、表面的で形式的であったり、商業ベースに乗りやすい形のサービスが先行する感は否めない。だが、ものによっては、問題をさらに深刻化させているものもある。
問題解決は、「シューカツ」テクニックを磨かせて限られた求人椅子を奪い取れということではない。自己診断ツールで自分の適性をタイプ分けし、この職種を狙えと指南することでもない。キャリアデザインシートの「Will・Can・Must」の空欄を埋めさせ、「強み/弱み」を棚卸しさせ、「10年後のありたい姿」を書かせる作業でもない。
問題の根っこは、「働くことを切り拓く力」の急速な脆弱化にあるのだ。「働くことを切り拓く力」とは―――働くことについて関心を持つこと、具体的な職業について意欲を起こすこと、職業を得ること、そして生計を立て家族をきちんと持つこと、仕事で直面する失敗や成功を通して自分を成長させていくこと、正解のない問いに対し答えをつくり出していくこと、選択肢が与えられるのを待つのではなく、選択肢そのものをつくり出していくこと、職業をまっとうすることで人生の基盤をつくり今生の思い出を残していくこと、夢を描くこと、志を立てること―――などについて自律的に力を湧かせることだ。「働くことを切り拓く力」とは、ほぼ「生きることを切り拓く力」に等しい。
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【働くことを切り拓く力】
2011.01.11
2011.01.11
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。