「働くことを切り拓く力」の脆弱化を考える〈上〉

2011.01.11

組織・人材

「働くことを切り拓く力」の脆弱化を考える〈上〉

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

景気低迷による求人数減少という問題でなく、学生の就職内定率低下という問題でなく、その奥底に進行する「働くことを切り拓く力」の問題について考える。

 運よく商品を購入できた人は「やれやれ」だが、商品を購入できなかった人は、代替品を求め、条件をゆるくして検索を繰り返す。どこの商品も「完売」となり、検索をかけてももはや該当商品が出てこなくなったらカタログショッパーとしてはお手上げ、買い物を中止するしかない。
 ショッピングなら、たとえ物が買えなかったとしても済ませられるかもしれない。しかし、就職においては、自立するための職業が得られないのだ。これは重大問題だ。人は職業を得てはじめて、生活を立てられ、家族を持てる。そしてその職業を通して自己の可能性も開発できる。衣食住・医の根本は、職を保つことによって可能になる。一個一個の人間がきちんと職を保つことは、地域・国の和を保つためにも欠かせない。

 学生の内定率が低下しているという現象は小さからぬ問題ではあるが、私が危惧するのはもっと奥に進行する問題だ。大事な職業選択をカタログショッピング的にやることしかできない、検索でかからなくなったからもうどうしたらいいか分からない、そうして漂流している学生が世の中のそこかしこに増え、蓄積し、層を形成し、歳をとっていく。当の学生本人たちは何もふざけているわけではない。彼らなりに真面目でさえある。だから問題は根深い。
 文明の発達とともに、社会の平和とともに、生きる力が脆弱化するという指摘は、いまに始まったことではないし、日本だけの問題でもない(かく言う私だって、明治時代の40代に比べればひ弱もひ弱だ)。しかし、社会をあげて死守しなければならない生きる力のレベルというのもあるだろう。その死守すべきレベルがいよいよ侵されようとしているのだ。

◆意欲をどう湧かせ何をして働いたらよいか分からない人間を生む社会
 T君は、マーケティング専攻で、卒業研究はネット通販事業に関するテーマだという。ネット通販会社はもちろん、eマーケティング関連やITシステム関連の会社などを数十社受けたがまったくダメで、その後、小売業、ホームページ制作会社などにも範囲を広げていったが結局内定は取れなかった。
 「マーケティングのどこが面白い?」「ネット通販事業ってどんな可能性がある?」「例えば第一志望の楽天に入社できたら何がしたかった? 逆にいまの楽天に課題があるとすればどこだと思ってる?」「ウェブサイトの制作スキルがあるって言ってたけど、どんな会社のウェブサイトがすごい?」―――などをT君に穏やかに訊いてみる。いずれも明快な返答は返ってこない。声もまったく小さい。確かに、ここでよい返答ができているなら、どこかで内定を得ていただろう。

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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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