2011年、「異種格闘技戦」をどう生き抜くか?

2010.12.28

営業・マーケティング

2011年、「異種格闘技戦」をどう生き抜くか?

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 日経MJに「予期せぬライバルは国境を超え、業種、業態の垣根を越えてやってくる」と、昨今の市場環境の潮流に言及したコラムが掲載された。来年はさらにそれが強まるだろうという論調だ。では、「どう生き抜けば、勝ち抜けばいいのか」が問題だ。

 動向を予測してどう手を打つのか。コラムは有名な米ウォールマート対トイザラスの事例に言及している。クリスマス商戦時に玩具売り場を大幅拡大して、トイザラスの牙城を崩した。「販売網と大量仕入れ」による「規模の経済」である。トイザラスも「玩具業界」では規模の経済を効かせてきた企業だが、「垣根越え」にやられたのだ。なぜか。「規模は、さらに巨大な規模に負けるから」だ。それを避けるためには、「経験効果」を構築しておくことが必要だ。効果・効率を高める、「人と組織」に付くノウハウの蓄積と活用である。
 例えば、文具メーカー再大手のコクヨグループで文具通販を展開するカウネットは、2007年に同業の文具通販会社2社を買収合併した。「規模化」することも大きな目的の一つであったはずだ。しかし、アスクルを追い抜くことはできなかった。先行するアスクルは、規模で戦っているだけでなく、蓄積した経験効果があるからだ。同社は岩田社長が「顧客の代弁者でありたい」と語るように、徹底した顧客志向を貫く思想と、それを体現するコンタクトセンターがあり、そこから吸い上げられた顧客の声が商品開発などに活かされている。顧客は「アスクルならでは」という「経験価値」を感じて利用している側面も大きい。
 前述の「コーヒー戦争」でマクドナルドに攻められる側に回った専業大手、スターバックスやドトールコーヒーも経験効果による戦い方、経験価値の提供で生き抜くことが求められる。「専業ならでは」の味や香りという商品の価値を高めるだけでなく、顧客応対や店内空間の作り方など、蓄積したノウハウで低価格に負けないことを目指すのだ。

 コラムの3つめの事例は家庭用品製造卸のアイリスオーヤマのLEDの製造販売。<家庭外壁などの電飾で培った技術を応用し中国で低コスト生産、家電大手メーカーが手薄のドラッグストアなどで販売を伸ばしシェアを拡大した>とある。アイリスオーヤマの勝ちのポイントは、「販路」だ。マーケティングの4P(Product=製品・Price=価格・Place=販路・Promotion=広告/販促)といわれる施策展開の要素の中で、販路は唯一、自社だけでコントロールできない要素だ。なぜなら、製品を作ることも、価格決定も、広告も自社だけで決定できるが、販路は利害関係が絡む「他社」との調整が欠かせない。調整には時間がかかる。故に、アイリスオーヤマは自社が得意な販路を中心に販売を伸ばしたのだ。他社が追随してドラッグストアに販路を広げようとしても、入り込むには時間がかかる。その参入障壁を持ちつつ、価格敏感度が高いターゲット顧客が集まり、販路であるドラッグストアも安い価格で提供できる商品を仕入れたいというニーズがある。そこに勝機があったのだ。競合に勝ち抜こうと思ったら、既存の販路をうまく活用することも欠かせないのである。

 2011年は、景気の踊り場や二番底懸念が遠のいたといわれる。しかし、まだまだ厳しい環境であることには変わりはない。いや、昨年から言われ始めたキーワード、「ハーフエコノミー」や「ニューノーマル」が示すのは、08年の経済危機以前に経済環境が戻ることはなく、異常事態と思っている環境が常態(ノーマル)化することを意味している。2011年もそれが継続する可能性は高い。
 生き抜くために、勝ち抜くためには、環境や競合、顧客をよく見て、自社の強みを最大化できる方法を愚直に探っていくことが欠かせないのである。

続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。

Ads by Google

この記事が気に入ったらいいね!しよう
INSIGHT NOW!の最新記事をお届けします

金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

フォロー フォローして金森 努の新着記事を受け取る

一歩先を行く最新ビジネス記事を受け取る

ログイン

この機能をご利用いただくにはログインが必要です。

ご登録いただいたメールアドレス、パスワードを入力してログインしてください。

パスワードをお忘れの方

フェイスブックのアカウントでもログインできます。

INSIGHT NOW!のご利用規約プライバシーポリシーーが適用されます。
INSIGHT NOW!が無断でタイムラインに投稿することはありません。