なぜ売れる?「パナソニック・ナノケア」の謎を探る
上記3種の「ナノケア」のうち、スチームが目に見えるのは「スチーマーナノケア」だけ。「ナイトスチーマー ナノケア」は「スチームに風を混入し、安全に配慮した温度設定で放出する」とのことで、スチームは目に見えない。さらに、「デイモイスチャー ナノケア」は本体にスチーム用の水をセットする容器すらない。「空気中の水分を集めて使用する」のだという。ビックカメラの売り場のデモ機では、来店客の女性が試していたが、傍から見ると機器の前に顔を突き出しているだけのようにしか見えないのだ。「観察可能性」がない。
効果が実感できるようになるには、「ナイトスチーマー ナノケア」は「2週間継続使用時」、「デイモイスチャー ナノケア」は「1日約2時間を2週間使用した場合」という条件が付いている。デモ機でちょっと試したぐらいでは効果は実感できない。効果を現す元=スチームも目に見えない。だが、売れているのだ。
売れている理由が、5月26日付・産経新聞・大坂版夕刊の記事で見つけることができた。「流行をつかめ!ビジネス最前線」というコラムだ。パナソニックは「高温のスチームを発生させる美顔器を販売し二けた成長を続けていた。しかし、爆発的な売れ行きにはならなかった」と記事にある。前出の1機種、「スチーマーナノケア」のことだろう。消費者調査をしたところ、「使い続ける自信がない」との声が多く寄せられたという。1日15分、美顔器の前にじっと座っていることができないというのだ。そこで同社は、「寝ながら美容」というコンセプトを考えたという。
忙しい現代社会において、「顧客満足」を獲得するための要素の一つは、「Time saving」だ。2009年のヒット商品番付にも載った花王の洗濯洗剤「アタックNeo」は洗濯の「すすぎ」を従来2回必要なところを1回で済む「泡切れの良さ」を実現し、「家事時間10分間短縮」という効用で大ヒットとなった。最近、テレビCMや交通広告でも数多く露出している、「家庭用自動掃除ロボット・ルンバ」も「お掃除するのは、ルンバの仕事」と、掃除からの解放という「Time saving」を訴求している。
「顧客満足」を真の満足にさらに高めるためには、「Time saving」だけではまだ不十分だ。パナソニックも、「寝ながら美容」を機能的に実現したものの、「情緒的価値」が必要であると考えた末に、本体の「球形のデザイン」に行き着いた。産経新聞のコラムでは、「あの丸いの、ください」と30歳代のOLが大阪市内の家電量販店に来店した時の様子を伝えている。パナソニックビューティー・ヘルスケア商品チーム主事、山田詩織さんという担当者は「女性は丸い形に癒やされる。理屈じゃないんです」と、組み立てがしにくいという開発チームの意見を説得したという。
利便性の提供という「Time saving」を達成したら、さらに「Peace of mind」という「癒し」を提供する。そこに至って、初めて真の満足を提供することができたことになる。「ナイトスチーマー ナノケア」は2008年11月の発売から09年3月までの累計で35万台を売上げ、当初計画である月1万台の2倍を上回る好調ぶりだという。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。