米国アップル社iPadの出現は、一気に本の在り方を変えてしまうかもしれない。そして、いよいよ日本でも書籍デジタル化の波が襲う。それは電子教科書の誕生を示唆しているのか。
以前、ツイッター上で「電子教科書」の是非について激論が起きた。その中心となる人物がソフトバンクの孫正義社長。同社は「iPad」の日本販売独占権を得ており、米アップル社と電子書籍の陣営を組み、電子書籍版「iTunes」をめざす。
プラットフォームの覇権争い
ツイッター上で孫氏は「電子教科書」推進派として、「ノートと鉛筆は否定しない。電子教科書でないと失う物多し。紙の教科書でないと失う物は何だろう」「革新的技術が生まれた時、保守派は足りない点を見て嘆き、革新派は優れた点を見て夢描く」などと主張。
孫氏は、7月28日に誕生した、パソコンなどの電子端末を使って読む、電子教科書の普及を進める「デジタル教科書教材協議会」の発起人のひとりでもある。孫氏の主張には、教育をなんとか変えたいという熱い想いの一方、米国アップル社と電子書籍のプラットフォームを確立し、その覇権を握ろうとする野心が入り交じっているように感じる。
このプラットフォーム戦争の主な陣営数は10以上。「KDDI・凸版印刷・ソニー・朝日新聞社」、「NTTドコモ・大日本印刷」、「丸善・ジュンク堂書店・大日本印刷、紀伊國屋書店」、「セブン&アイ・ホールデンディスク」、「シャープ」、「米グーグル」、「ソフトバンクモバイル・米アップル」、「米アマゾン・ドット・コム」、「セブン&アイ・ホールディングス」、「角川グループ」による配信サービス陣営である。11月4日には作家の村上龍氏が、電子書籍の新会社「G2010」設立。
また、大日本印刷などが幹事を務める電子出版制作・流通協議会、講談社を中心に「日本電子書籍出版社協会も発足している。雨後の竹の子状態である。このような動きは「iPad」をはじめとした電子端末機の登場を契機に、国内でも電子書籍の普及が現実味を帯び、紙の本は時代遅れになる危機感から来ている。本離れが進むとはいえ、日本の書籍・雑誌の年間販売額は約2兆円。参入を目指す企業には魅力的に映るに違いない。
今後、電子書籍のプラットフォームの覇権取りを狙い、米国も含め国内企業の争いは激化することは間違いない。業界標準のフラットフォームを握ることさえ出来れば、もはや他社の付け入る隙はない。2014年の電子書籍市場規模は3000億円とも言われており、2009年比で5倍に上る。
教育業界にも電子書籍の波が
この動きは、教育業界でも無縁ではない。それが電子教科書の登場である。既に米国では電子教科書が一足早く誕生しており、米CourseSmart社が「iPad」上で動く電子教科書アプリ「eTextbooks for the iPad」、同様にScrollMotion社が「Textbook Firms Ink E-Deals For iPad」をリリースしている。米国の場合、教科書検定制度が日本ほど厳密でないことが、電子教科書導入を加速化させたひとつの要因にも上げられる。
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2010.12.01
2011.01.14
株式会社経営教育研究所 代表取締役
教育ビジネスのアナリスト/コンサルタント。専門はフランチャイズ(FC)とデジタル関連。個別指導FCやベンチャーなどの教育機関を経て、2009年に民間教育シンクタンク経営教育研究所を設立。教育と異業種を結ぶエデュイノベーションLLPパートナー。