「自信」について~自らの“何を”信じることか

2010.10.19

仕事術

「自信」について~自らの“何を”信じることか

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

「自信」とは読んで字のごとく「自らを信じる」ことだが、そこには2つの信じるものがある。1つは自らの能力・成果を信じること。そしてもう1つは、自らやっていることの価値・意味を信じることだ。前者の自信は「長けた仕事」を生み、後者の自信は「強い仕事」を生む。

 ◆「長けた仕事」と「強い仕事」
 〈腕利き〉は、自らの専門技術や知識を活かして「長けた仕事」をする。〈使命感の人〉は、自らの強い価値信念のもとに「強い仕事」をする。前者の「長けた仕事」においては、目標の達成度や事がうまくできたかどうかの優劣が問われ、競争が働く者を刺激する。後者の「強い仕事」においては、成すべきことの意味や自分の役割が問われ、共感が働く者を刺激する。
 「長けた仕事/競争」も「強い仕事/共感」もどちらも大事であるが、昨今の事業現場では、「長けた仕事/競争」への偏りが大きいことが問題だ。いったい今のあなたの職場に、自分の仕事に関し、自分自身への意義、組織への意義、社会への意義を見出しながら、こうあるべきという信念を軸に自律的な「強い仕事」をしている働き手がどれくらいいるだろうか。
 それと同時に、上司や組織は、そうした意義を引き出すために、どれだけ個々の働き手たちと共感の対話をしているだろうか(これについては拙著『個と組織を強くする部課長の対話力』で詳しく書いた)。
 “skillful”な(スキルがフル=技能が詰まった)人財ばかりを求め育てるのではなく、“thoughtful”な(思慮に満ちた)人財を増やしていくことにもっと上司と組織は意識を払うべきである。そのためにはまず、上司と組織が、自組織にとっての2番目の自信、すなわち、自らの組織がやっていることの価値・意味を信じることが不可欠だ。そしてそれを言語化して、部下や社員に表明できなくてはならない。企業が単に利益創出マシンになっているところからはこの自信は生まれてこない。

 ◆負けたら終わりではない。やめたら終わりだ
 個人においても組織においても、自信をもつことは精神的な基盤をもつことに等しい。逆に、自信をなくすことは基盤をなくすことでもある。自信には2つあるが、では、1番目の「能力・成果への自信」と2番目の「やっていることへの自信」とどちらが最下層の基盤なのだろう?―――私は後者だと思っている。
 先日、知人のベンチャー会社経営者と会ったとき、会社存続が危ういことを打ち明けられた。事業整理もし、人員整理もし、ぎりぎりのところで踏ん張ろうとするのだが、それでも見通しは厳しい。いっそ会社をたたんでリセットしてしまい、一人身軽に再出発するほうがはるかにラクだという。
 有能なコンサルタントであった彼の自信はもはやズタズタに切り裂かれた。経営能力の不足、経営者としての未熟さ……自分を責めても責めきれないのだが、そうこうしている間にも、次の資金繰りのタイムリミットもくる。
 「やはり会社をたたむかな」……。そこで会ったとき、彼は最後にそうつぶやいていた。

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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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