勢いが止まるところを知らないユニクロ。次の一手はカジュアルウェアの最もベーシックなアイテムであるジーンズだった。しかし、その戦略はあらゆる競合を撃沈させるインパクトを持った一撃だったのだ。
かつてロードサイド店だった頃、価格が安く品質はそこそこだったユニクロは、SPA方式の採用とともに品質向上に全力を挙げて「品質だけで勝負したらどこも敵わない」と大手アパレルメーカー幹部が口にするまでに一気になった。次にヒートテックやブラトップ、新しいところでは姿勢矯正下着のスタイルアップインナーなどの「機能性」を高めた。さらに、デザイナーのジル・サンダーと契約し「+J」ブランドを上市しただけでなく、デザイン監修契約によってデザイン性の向上も図っている。
「価格」は人によって安く感じたり高く感じたりするが、金額だけは絶対値だ。安く感じるか否かは、人の金銭感覚だけではなく価格に対していかに「価値」が高いかによる。ユニクロはその「価値」を高め続けているのだ。
「バリューライン」で考えてみよう。横軸に製品・サービスの「価格」、縦軸に「価値」の二軸を取ると、「安くてそれなりの価値のもの」から「高くて価値の高いもの」という比例した関係が出来上がる。それがバリューラインで、世間の相場だ。アパレル市場、もしくはカジュアルウェア市場でユニクロ全体としては、低価格なのに高価格のものと同等の価値である「スーパーバリュー」のポジションを取る戦略である。
では、UJがジーンズ市場に与えるインパクトを考えてみよう。ジーユーの990円ジーンズからUJのプレミアムラインである3,990円で、バリューラインの価格レンジはすべて押さえたことになる。「ユニクロとしての価格に見合った品質」に従った、「ユニクロとしてのバリューライン上のラインナップ」である。すると、何が起こるか。ほとんどの、いや、全てと言っていいかもしれない。競合となる他社ジーンズは、ユニクロの作ったバリューラインを下回る構図ができあがるのだ。
競合の価値が低いのではない。しかし、価格と価値の二軸で考えれば、金額の絶対値が高くなるためバリューラインの下にポジションされてしまうことになるのである。
今回のUJのインパクトは、スーパーバリューのポジションを取りに行くのではなく、自らのラインナップを「標準」として、競合を全てバリューラインの水面下に撃沈させるという戦略であるということだ。「どうしても特定のジーンズブランドが好き」とか、「ずっとご氏名の型番をはいている」とかでなく、こだわりがなければUJ以外のジーンズを購入するのは不合理であることになる。
もちろん、人は経済合理性だけでモノを買うわけではない。筆者のご指名はエドウィン503ZZだ。しかし、もう一本となったら、UJで十分かな?と思ってしまう。昨今の消費者の購買行動はどんどん合理的になっているのだから。
ジーンズ市場はもはや勝負あったの感が強い。ユニクロが次に狙うのはどの市場か。その興味は尽きない。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。