「トイデジ」の流行の理由とそこから学ぶもの

2009.10.22

営業・マーケティング

「トイデジ」の流行の理由とそこから学ぶもの

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 微妙なボケ味とビビッドなカラーバランスの写真が仕上がる「トイカメラ」。ロシア製のLOMO、中国製のHOLGAなどがその代表格だ。そして今、その流行はデジカメにも波及し、トイカメラのデジカメ版「トイデジ」が若者に大人気だという。

 内閣府の消費動向調査によれば、2009年においてはデジタルカメラ普及率(2人以上の世帯)は69.2%に上る。デジカメの出荷台数は2006年に過去最高の942万4000台を記録した。高機能化でさらなる普及や買い換えを促進したいところであるが、そろそろ頭打ちの閉塞感は否めない。携帯電話にも一部のビジネス機以外にはモレなくカメラが搭載されているが、携帯電話は人口普及率で88.5%に到達している。その数字まで入れれば、今日はまさに、一人複数台のデジカメを所有しているということになる。まさにプロダクトライフサイクルは完全なる成熟期だ。

 そんな中で、Cyber-shotの「顔検出」や「笑顔検出」は、実体的価値を高めた例といえる。それによって、「被写体をよりきれいに・よりいい表情で残す」ことができ、中核的価値を高めているからだ。消費者から支持される差別化ポイントたり得る。
 しかし、そんな高度な機能をいくつも開発して付加していくことは困難だ。この後は、付随機能としてカメラのカラーバリエーションを増やしていくことなどしかできないのではないか。

 トイデジの流行が意味するもの。それは、人気の秘密の、「デジタルで思いもかけないような仕上がりの写真が撮れること」である。つまり、デジカメの中核的価値である「キレイにデジタルで画像が残せる」とは全く異なる。トイデジはデジカメであってデジカメではないのだ。

 誰もが当り前に思う「中核価値」が、時代の流れの中では消費者ニーズとは乖離してしまうこともあり得るのだ。全ての消費者を一律に見るのではなく、ニーズギャップを抱えているセグメントを見つけて、そのセグメントの求める価値を実現することで、新たな市場を開拓することができる。
 トイデジを買った若者は、既にデジカメを1台や2台持っているだろう。しかし、単に「きれいに写す」という価値に飽き足りなくなっているというニーズギャップを抱えていた。それに応えたのがトイデジなのである。
 この流行の意味するところからの学びは大きいといえよう。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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