早稲田大学は7月10日、大隈小講堂で公開フォーラムを開催、テレビ朝日アナウンサーの角澤照治氏がスポーツ実況に10数年関わった経験を語った。[堀内彰宏,Business Media 誠]
母方の祖母は今年99歳になり、普段は20時くらいに寝るのですが、僕がたまにクイズ番組とかに出ると遅くまで起きてくれたり、報道ステーションに出る場合には22時くらいまで起きてくれたりします。ある意味、ほかの視聴者無視ととらえられてもおかしくないのですが、僕はおばあちゃんに向けて、おばあちゃんが楽しくなるように話しています。それぐらいのつもりでやらないと、自分の中で何かぶれてしまう気がするので。
ニュースステーションのスポーツコーナーを担当することになった時、しばらく久米さんは何のアドバイスもしてくれないし、話しかけてもくれませんでした。1カ月経ちましたが、何にも言われない。2カ月経っても、何にも言われない。半年くらい経った時、久米さんのマネージャーに久米さんの控え室に行くよう言われて、トントンとドアを叩いて入っていったら、久米さんが「ちょっと座って」と言って、「角澤君さあ、何人くらいの前で今スポーツコーナーやっているつもりでいる?」と聞かれたのです。
僕はそんな質問されてもよく分からないので、「え、何人だろう。100人くらいの規模ですかね」と答えると、久米さんに「今日からお父さんでもいい、お母さんでもいい、恋人でもいい、おばあちゃんでもいい、おじいちゃんでもいい。1人だけの前で喋るつもりでやって。君の喋り方は何万人もの前で喋っているような喋り方に聞こえるよ」と言われたのです。
久米さんというのは不思議な人、禅問答みたいなことが好きな人で、それからは廊下ですれ違うたびに、「ああ、久米さんだ」と緊張して「お疲れ様です」と言うと、「昨日のは5500人」とか久米さんが言うわけです。それでまた別の日にすれ違うと、「また増えた、7万5000人」とか言われたりしました。久米さんが言ったことというのは、「伝えるべき対象を具体的に置かないと伝えられない」ということだと思います。今、この瞬間も実はそうです。僕がどこに向かって喋っているかというと、この中に「絶対にアナウンサーになりたい」と思っている人が1人くらいいるかなと思っているので、僕は「アナウンサーになりたいな」と思った20年前の自分がその辺に座っていると思って話をしています。
またある時、久米さんには「何かいまひとつ自分で気持ちをハイにしたいけどできないんです」と相談したこともあります。そうしたら久米さんは、「気持ちは分かるけど、角澤君の心の状態というのは正直見ている人には一切関係ない。見ている人はただ単に明るいスポーツコーナー、今日はこんなことがあった、今日はこんな楽しい出来事があったので、皆さん一緒に楽しみましょうよという空間を待っている」とおっしゃいました。
テレビ朝日はなぜ“絶叫系”の実況を求めていたか
「僕が伝えたいこと」「テレビ朝日が伝えたいこと」「視聴者が知りたがっていること」のリンクが非常に難しいと言いましたが、テレビ朝日は一時期、いわゆる“絶叫系”の実況を求めている時代がありました。僕はそんなに絶叫したくなかったのですが、テレビ朝日は当時、TBSさんにも視聴率を抜かれていて非常に苦しい状態だったので、「少しでも視聴者を獲得しないといけない」ということから、絶叫するのがいいとは限らないと分かってはいたものの、「注意を引き付ける意味で盛り上げてくれ」と言われた時期がありました。
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
テレ朝・角澤アナが語る、スポーツ実況の内幕
2009.08.20
2009.08.18