言いたいことをぎっちりと詰め込んで。そのためにデザインも工夫して。思いの丈のすべてを盛り込んだパンフレット、なのに結果的には、読んでもらいたい人に少しも届いていない。どうして?
典型的な悪例、生命保険の約款
細かな文字、少し専門的にいうと7ポイントぐらいの大きさの文字で、ぎっちりと書きこまれているのが、保険会社の約款。パッと見ための印象は、真っ黒だ。なぜ、黒々として見えるかわかりますか。答はかんたんで文章に漢字がたくさん使われているから。
画数の多い漢字は黒く見える。黒い漢字が多数使われていると、誌面全体が黒く見える。心理的には黒い誌面には、相当な圧迫感があり、まず読もうとする意欲自体が削がれてしまう。このワンブロックの文章等がその典型である。結果的には保険の約款なんか誰も読まない。
と、実は黒い約款の狙いは、この「読まれない」ことにあったりするんじゃないかと疑いたくなるぐらいだ。といえばクレジットカードの申込なんかも同じではないだろうか。少なくとも、約款などの誌面からは「どうぞ、読んでください」といったフレンドリーな印象を受けることはまずないだろう。
地下鉄構内案内の問題
筆者はNPO法人に関わっている。このNPOでやっているメインの活動が、地下鉄をはじめとする公共交通機関でのバリアフリー経路情報の提供だ。今のところインターネットで情報を公開していて、サイト名を『えきペディア(http://www.ekipedia.jp/index.html)』という。このサイトのメインコンテンツが「らくらくマップ」である。
「らくらくマップ」とはひと言でいえば、地下から地上へ楽に移動するルートを案内するマップである。だからエレベーターがある駅については、それがわかりやすく。エスカレーターしかない駅でも、エスカレーターのある位置がひと目でわかるようにと工夫されている。
駅の構内図だったら、メトロや都営がちゃんと作っているじゃないかといわれれば、その通り。しかし、これら公式の構内図は「とても見づらい」のだ。なぜかといえば、情報が網羅的に盛り込まれているから。
不要な情報はノイズになる
例えばベビーカーを押しているお母さんのことを考えてみよう。エスカレーターや階段ではベビーカーを折りたたんでください、といった注意書きがある。すると、どうなるか。お母さんは片手で子どもを抱え、片手にはベビーカーをぶら下げ、ついでに荷物もなんとか持って最悪、階段を上らなければならない。とんでもない重労働である。
だから、駅ではまず、どこにエレベーターがあるかを探そうとする。ところがエレベーターだけを見つけたい人にとって公式の構内図はとても見づらいのだ。その理由は、ノイズ情報が多すぎるからである。
次のページ全部伝えたい、では結果的に、何も伝わらない
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