『ブラック・スワン』というタイトルの本が話題になっていることをご存じだろうか。「長年の経験則が1つの例外でくつがえされてしまう」という内容なのだが、そこから見出せる人生哲学とは何なのか。[森田徹,Business Media 誠]
いや、何も筆者は「経験則が役に立たない」とか、そういう諦観(ていかん)を披露したいわけではない。むしろ逆だ。黒い白鳥が、ポジティブな意味でやってきて“運命の女神”になることだってあり得ると言いたいのだ。「自分には●●ができない」「どうせ●●をやってもいいことはない」といった消極性は、我々の狭量な経験則から生まれるもの(行動経済学的には「アンカリング効果」。心理学的には「学習性無力感」と言ったりする)、「それが将来も続く」とあきらめるのは早すぎる。
黒い白鳥、運命の女神、あるいは千載一遇のチャンス……名前は何でもいいが、そういったものは確実に存在するし、それは「普通ではない」「不確実すぎて予測不可能なところから」「常識的な確率分布で考えれば無視される程度の確率の世界から」やってくるものなのだ。問題は、黒い白鳥が狭量な経験則から紡がれたモデルにおける確率論を超えてやってきた時に、適切な対応をする心構えができているかという話である。
物事は、後から見れば全て予定調和的だ。しかし、振り返ってみて良い境遇に恵まれなかったからと言って、今後もそれが延々続くという帰納的な論理に何ら妥当性はない。いつ何時でも、閉塞感に支配されるには、我々の経験は浅すぎる。そう、すべてをあきらめるのはまだ早すぎるのだ(逆に、今まで良い境遇に恵まれたからといって、これからも続くとは言えないということにもなるのだが)。
……純粋な読書感想文として、「確率論で語られる物事は純化されすぎているか、あるいは語り切れていない。それなら、もっと分からないことを楽しめるようにしよう」と感じただけなのだが、それを言葉にしようとするとなかなか難しい。やはり、自己啓発的な文章の論調は、狭い楽観的な経験則で彩るに限るということだろうか。ところで、S書房さん、東大生に自己啓発本書かせようとしてもこの程度なんですけど、大丈夫なんですかね?
<著者プロフィール:森田徹>
1987年生まれ、東京大学経済学部経営学科在学中、聖光学院中高卒。現在、東大投資クラブAgents、自民党学生部などのサークルに所属している。投資・金融・経営・政治・コンピュータ/プログラミングに興味を持つ。リーマン・ブラザーズ寄付講座懸賞論文最優秀賞、日興アセットマネジメント主催「投信王 夏の陣」総合個人優勝。主な著書に『東大生が教える1万円からのあんぜん投資入門』(宝島社)
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