古書店街の代名詞、神田神保町で日々開かれている古書交換会。太宰治の限定300部の『駈込み訴え』、司馬遼太郎の直筆原稿、与謝野鉄幹が発刊していた詩歌雑誌『明星』など希少な書籍が流通する。古書店主たちはどのように仕入れを行っているのか、その現場をのぞいてみた。[郷好文,Business Media 誠]
入札には駆け引きが
古書の入札はどのように行われるのか。どの本の上にも1枚の封筒がある。例えば、敬愛する風間完画伯の水彩画集、上に置いてある封筒に買い付けたい書店主が名前と金額を紙片に記入して入れる。時間が来れば開封して、最高値を書いた書店主が落札という単純な仕掛けである。
会場を見回していると、古書のプロたちの“ある仕草”が気になった。歩き回っては封筒に触れたり、持ち上げたり、中をチラっとのぞいているのだ。
「中に入れた入札の札を見てもいいんですか?」
大場さんに聞いてみた。
「それはダメです。でもそこには駆け引きがあるんです」
「駆け引き?」
「札が何枚入ったか、あるいはマークしている同業者が封筒に近づいたかをチェックして、自分の札が落札できるかを見ているんですね」
欲しい本の入札状況を察して、値を上げようと思えば“改”という文字を入れて変更することもできる。逆に自分以外に誰も入札がないようで“高すぎた”と思えば、値段を下げることもできる。なるほど、たった1枚の封筒にも駆け引きが詰まっている。
目利きの仕入れ、合理の仕入れ
「この交換会を仕入れ場にして、神保町の裏通りの“2階”で開業する書店も増えています」と言うのは同組合の五十嵐理事。交換会で仕入れて、ネット通信販売をメインにする“事務所営業”店舗である。例えば洋書、地図、ジェンダー、レコード、特価本など特定分野に絞って、ロングテールな古書販売をバーチャルに行う。神田神保町という“住所”のブランド力を生かすのだ。
だが表通りにせよ裏通りにせよ、書店主の命は目利き。その力を鈍らせないよう交換会に毎日やってくる店主もあれば、目利きの修行の場として後継者を同伴することもある。目利きも駆け引きも奥は深い。東京古書組合広報代行のブレインズカンパニーの横山真紀さんがそっと教えてくれた。
「最高6枚も“改”の札を入れた人もいるんです」
随分迷って上げ下げしたようだ……。一方、ブックオフなど古書チェーンの仕入れは、「定価の1割(またはそれ以下)程度」「売れ筋で新しいものは高め」とシンプルにしてパートでも簡単にできるようにした。超合理的な仕入れ、古書流通市場を革新して“新刊本の読み回し市場”を作った功績は大きい。だがその仕入れ値が真の価値に基づいているかは疑問。ブックオフの100円均一本を仕入れて1000円で売る人もいるというから、古本の価値は“薮の中”といってもいいかもしれない。
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