『暴走する資本主義』:一個一個のビジネス人に重く問う一冊

2009.06.01

ライフ・ソーシャル

『暴走する資本主義』:一個一個のビジネス人に重く問う一冊

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

箍(たが)のはずれた資本主義を修正するために、個別の強欲企業・守銭奴経営者をやり玉に上げることは根本の解決にはならない。それは、私たち一人一人に焦点を当てねばならない。

私たち一人一人には、多面性があります。
「消費者」であり、(広い意味での)「投資家」でもある。
そしてまた同時に、「労働者」であり、「市民」でもある。

70年代以降、「消費者としての私」、「投資家としての私」は、飛躍的にその立場が強まった。
より有利な(=得をする)選択肢を求めて、動ける方法が格段に多くなったのです。

しかし、その「消費者」「投資家」としての利得欲望が増せば増すほど、
「労働者」「市民」としての私たち一人一人は、逆に富を享受できない方向へと
押しやられていく皮肉な現象を起こしているのが昨今の状況です。

そうした資本主義の歪みを矯正するのが、民主主義・政治の役割なのですが、
もはや暴走する資本主義にのみ込まれてしまって機能しなくなっている。

著者は、ワシントン(=米国の政治)が、いまや
企業という利益団体から雇われるやり手のロビイストたちで動かされている現状を
具体的に書き連ねています。
公益や社会の真に重要な問題を訴える市民団体や非営利組織などは、
団結力や資金力に乏しいので、
その訴えがワシントン上層部に届く前に雲散霧消していく場合がほとんどだと言及しています。

「消費者」や「投資家」としての私たちは、
ネットショッピングやネットの株取引、ネットの検索などを利用して、
ワンクリックで自分の意思を即座に完結させることができる手段を持った。
そして、それらはグローバルにつながり統合されることで、巨大なパワーとなる。

その一方で、「労働者」「市民」としての私たちは、
意思を世の中に伝える手段はきわめて限られており、脆弱なままです。
一労働者・一市民として、
「このままじゃいけないので反対しよう」「何か役立つことをしたい」と思ったところで、
それを実行し、ましてや同じ考えの人びとを束ねて大きな運動にするには
気の遠くなるような努力と時間が必要になります。

ライシュ氏は、序章でこう書いています。

「私たちは、“消費者”や“投資家”だけでいられるのではない。
日々の生活の糧を得るために汗する“労働者”でもあり、そして、
よりよき社会を作っていく責務を担う“市民”でもある。
現在進行している超資本主義では、
市民や労働者がないがしろにされ、民主主義が機能しなくなっていることが問題である。

私たちは、この超資本主義のもたらす社会的な負の面を克服し、
民主主義をより強いものにしていかなくてはならない。
個別の企業をやり玉に上げるような運動で満足するのではなく、
現在の資本主義のルールそのものを変えていく必要がある。
そして“消費者としての私たち”、“投資家としての私たち”の利益が減ずることになろうとも、
それを決断していかねばならない。
その方法でしか、真の一歩を踏み出すことはできない」。

次のページ個々の人間の叡智、勇気、行動が問われる大事なタイミング...

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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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