箍(たが)のはずれた資本主義を修正するために、個別の強欲企業・守銭奴経営者をやり玉に上げることは根本の解決にはならない。それは、私たち一人一人に焦点を当てねばならない。
そして、その答えが解き明かされていきます。
著者は、資本主義を暴走させたのは、
根本的な意味で、強欲な企業・経営者、あるいは
巨額の資金を運用する数々のファンドやマネーディーラーたちではないと言います。
それは、「消費者」「投資家」として力を持った一般の私たち一人一人なのだ―――
これが著者の主張する重要な観点です。
つまり、一人一人の力は小さいかもしれないが、
「もっと安いものを!」「もっとリターンの高い投資を!」という欲望が束となって
巨大な力を生み、資本主義を歪な形に走らせるプレッシャーをかけている。
例えば、ウォルマートは今日、米国で最大規模の収益を上げ、最多の従業員を雇用し、
日々、何千万人という消費者を招き寄せる圧倒的に強い小売企業となった。
そしてここ数十年間、目覚ましい勢いで株価を押し上げ、株主に報いてきてもいる。
それを可能にしているのは、
ウォルマートのサプライヤーに対する過酷で非情な交渉力です。
ウォルマートは「1セントでも安く買いたい」という個々の消費者の購買意思を集結させ、
あたかもその消費者団体の代表として仕入れ先と値引きの交渉を行う。
ウォルマートが収益を上げるためにやっている過酷なことは、外側だけに限らない。
内側に対してもギリギリまで削りに削る。
詳細の数値は本書に出ているので省きますが、ウォルマートの従業員・パートタイマーの
労働待遇(給料や福利厚生や年金保障、健康保険手当など)は厳しい。
しかしだからといって、ウォルマートのCEOは、
非情だとか残酷だとかのレッテルを張られる筋合いのものではない。
彼は、ビジネスという競争ゲームのルールに従って、
最大限の成果(収益獲得)を出そうと本人の能力を発揮し努力しているに過ぎないのです。
仮に、サプライヤーや従業員に温情をかけてウォルマートの値引き率が鈍ってしまえば、
1セントでも安く買い回る消費者は、そそくさと他のチェーン店に移ってしまうでしょう。
そして、収益が悪化傾向をみせるやいなや、株価が下がり始め、
少なからずの投資家たちがワンクリックで株を売り払う流れが強まる。
そして、株の下落は加速する。
四半期ごとの成績を厳しく問われるCEOは、交代を迫られるはめになる。
そうした背後でプレッシャーをかける投資家とは誰なのでしょう?
直接的にはもちろん、その株を保有する株主です。
そして間接的には、年金ファンドや保険商品、投資信託商品を通じて、
薄く広く「あなた」自身も、そこに関わる当事者の一人である可能性が高いのです。
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
【マクロの視点を持つ:資本主義】
2009.06.05
2009.06.01
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。