インターネットを活用し低価格で生命保険を提供するライフネット生命保険。既存生保に対する問題意識から生まれた同社は、ネット専業の保険会社として幾多の障害を乗り越えて事業開始に至っている。規制にがっちりと守られてきた保険業界に風穴を開けた同社の誕生秘話を探る。
成長の青写真ははっきりと見えている。ニーズはあるのだ。業界にも少しずつ変化が起こってきた。昨年10月には同業のSBIアクサ生命が保険料をライフネットに合わせ、電話対応も夜10時まで延長した。
「うちの真似をするなんてけしからんとか社員はいうのですが、僕はまったくそうは思いません。親会社のあるSBIアクサさんにとってこれは英断なんです。こうしたお互いが切磋琢磨しあい、ネット生保全体の認知度が高まっていけばそれに越したことはない。我々は決して競合などではなく同志といっていい。競合は既存の生保さんなんですよ」
ところで、全世界の金融界を恐怖のどん底に突き落としたサブプライム問題は、ライフネット生命にどれほどのダメージを与えたのだろうか。いくら新興とはいえ金融業界に属している限り、被害は免れ得なかったはずだ。
「意外かもしれませんがうちは被害ゼロです。なぜなら運用は安全な国内債券に限定しているからです。我々はいってみれば新人サラリーマンみたいなもの。それがいきなりリスクのある株式投資やFXなどに手を出すわけがありません」
シンプルな商品設計と掛け捨てに商品を絞り込んだ結果、運用で高利回りを追い求める必要がないことも幸いした。当たり前のことを当たり前にやる、そんなライフネットが今後めざすのは、これまでの業界常識を覆す(一方で消費者目線では徹底的に当たり前の)商品開発である。
「我々には、我々の行動に制約を加える親会社がありません。だから当たり前のことを当たり前にやる。本当にこれだけなんです。商品開発に際しては、お客様の声を徹底的に聴く。これも当たり前のことですね。商品をネットで販売するからといって、対面でお客様の話を聞かないわけではまったくない。ネットはあくまでも手段であって、実際に仕事をしているのは人間なんです。ネットは活用するけれども、人間の体温を決して忘れない。それが我々の基本スタンスです」
どこまでも当たり前を追求するライフネット生命保険が、若い世代のマインドを変えるとき、日本の少子化問題はその解決に向けての一歩を踏み出すはずだ。
~特集インタビュー
「なぜ、74年ぶり戦後初の独立系生命保険が生まれたのか」完~
【Insight's Insight】
当たり前のことを、当たり前にやる。ただし、徹底的に、一歩も妥協することなく。
ライフネット生命保険は、この原則を貫く企業である。社長を務める出口氏は業界最大手・日本生命の出身、業界事情を知り尽くしている。保険業界にいたからこそ、業界の矛盾も見えていた。その矛盾と徹頭徹尾ラジカルに向かい合い「当たり前」を追求して生まれたのが、ライフネットだ。
その起業は若きキャピタリスト谷家氏との最初の面談で決まったという。面談では資料さえまったく使われず、出口氏は生命保険業界が抱える課題と自らの問題意識を語っただけだという。その話に共感し会社設立を切り出した谷家氏と、申し出を即座に受けた出口氏のスピード感こそが、ネット時代のビジネスの特長ではないのだろうか。
しかも両者はそれぞれの分野でのプロである。プロがプロと出会い「当たり前」の保険をネットをフルに活用して実現した。ライフネット社のこれまでのプロセスは、これからの新しいビジネスの有り様を予感させるモデルである。
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FMO第23弾【ライフネット生命保険株式会社】
2009.05.26
2009.05.19
2009.05.12
2009.04.28