過日、ビジョナリーの松尾順氏がコラム「ブルーオーシャン戦略の要諦」で、成功例として任天堂のWiiを挙げていた。一方、Wiiの成功が、果たしてマーケティングの力によるものなのかという議論がしばしばなされる。そこで、マーケティングでヒット商品は作れるのか?ということを考えてみたい。
セオドア・レビットは「マーケティング近視眼」にならずに、鉄道事業は輸送事業と捉えるべき。映画産業は娯楽産業と自らを定義すべきだと説いた。
任天堂は、自らをゲーム機メーカーではないく、カードゲームのように、もっとわかりやすく手軽に、誰もが楽しめる道具を提供する事業と再定義したのだろう。
その意志決定は、Wiiの発売から遡ること2年、ニンテンドーDSで既になされていたハズだ。手元でもっと直感的にカンタンにゲーム機を操れる方が多くの人に愛されるハズ。その答えがDSではタッチスクリーンであり、Wiiでは加速度センサーというカタチに行き着いたのである。
以上のように考えれば、任天堂の意志決定の正しさ、WiiやDSの成功はブルーオーシャン戦略から見た成功要因と完全に整合している。
SCEやマイクロソフトの戦い方が間違っているわけではない。市場の環境としては、高性能なゲーム機を作るためのテクノロジーは成熟化している。それを受けて、よりキレイな映像で、より高度なゲームを望むコアな顧客とそのニーズは確かに存在している。競合として、お互い強力なライバルであるが、SCEは自社製のCPUによるひたすら高度なスペックを武器とし、マイクロソフトはPC向けの汎用CPUでコストパフォーマンスのバランスを最適化させることを武器とする。ざっと、3C分析的に考えても、理に叶った戦い方だ。しかし、ブルーオーシャン戦略的に考えれば、その戦いは果てしない血みどろの、レッドオーシャンの戦いである。
ブルーオーシャン戦略は戦わない。新たな市場を創り出す。「コアなターゲット」などのような、特定のセグメントを狙わない。新たな市場において、今までターゲットになっていなかった層を丸ごと取り込む。そして、新たな価値を訴求して、今まで持っていた付加価値からいらないものをどんどん捨てていく。
任天堂はもはやゲーム機市場で戦っていない。誰もが楽しめる、学べる、運動できる道具を提供する事業というブルーオーシャンにいる。
マーケティングでヒット商品は作れるのか?という問いに立ち戻る。
答えは、上記の通り、任天堂の例のように、作れるのだ。
しかし、ブルーオーシャン戦略はマーケティングのフレームワークではない。また、セオドア・レビットの教えも、マーケティング上の留意点を説いているに過ぎない。しかし、重要なことはそこなのだ。レビットはヒット商品、特に大ヒット商品を作る上での重要な示唆を与えてくれているのである。
激しい戦いを繰り広げている特定の競合、とにかく製品の価値を高めるという課題、そうしたことに気を取られていると、マーケティング戦略は俯瞰的視点を見失う。つまり「近視眼」だ。
任天堂は、一度立ち止まり、自らの価値を再定義することで、ブルーオーシャン戦略に移行することができたのだといえる。
マーケティングでヒット商品は作れる。しかし、小手先のマーケティング「戦術」では大ヒットは作れない。まずは、近視眼でない、正しいマーケティングの視点が必要なのだ。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。