牛丼チェーンが値下げ合戦を繰り広げている。生活者としてはこの不況期にありがたい話だが、一方で「大丈夫なんかいな?」とも思ってしまう。しかし、大丈夫ではなくとも値下げせざるを得ない事情がある。そして、恒常的な値下げに慎重と見られる吉野家はすき家のシカケに渋々と乗らざるを得ないように考えられる理由が見える。
不況によって、様々な業界で低価格化が進んでいる。そして、価格はペネトレーション型になっていく。かつてマーケティングは「シェア至上主義」であったといえるだろう。しかし、市場の飽和期を迎え、消費者が「買わない自由」を意識した時からいたずらに市場全体のシェアを追わず、一人一人の顧客のシェアを高める「顧客シェア」重視に変化していった。高付加価値、高単価型である。ところが昨今の経済環境はそうは問屋が卸さないのだ。
同じ低価格商品の競争であっても、うまく棲み分けができている例もある。ファストフードではなく、アパレルの話。「ファストファッション」と呼ばれる低価格衣料の世界だ。
昨年日本に上陸して話題になったH&M、その他、ユニクロ、トップショップ、フォエバー21。いずれのブランドもお互い戦っているようで、テイストの違いで微妙な棲み分けがなされている。また、ユニクロがファッション性を強化しH&M対抗色を強めているような動きも見せているが、それとても、消費者はどちら一つしか選択しないのではなく、どちらの商品も購入するという決定もできる。
しかし、牛丼は一度の食事で2杯を食べ歩くことはしない。各々のチェーンに固定的な熱心なファンもいるが、商品としての差別化が大きいわけではないため、価格差が明確なら一般の消費者は安い方に流れる。
コストリーダーになれるのは業界でただ1社だといわれている。全てのプレイヤーがプールの底で息を止めあって、一番最後までガマンして残れるだけの体力があるのがコストリーダーだと例示される。自動車業界ならトヨタ。
リーダーになれない企業は差別化戦略をとるか、狭い独自の市場で生存領域を確保する。マイケル・ポーターの分析だ。
差別化の難しい牛丼業界では、生き残りを賭けた息の止め合いが激しさを増している。
原材料の産地によるコスト構造の違いから、すき家は一気にシェア奪取し、コストリーダーの吉野家の座を狙う戦略に出た。吉野家はきっと対抗するだろう。松屋はどうする。目が離せない。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。