先週、日経新聞朝刊に「今時の売れ筋」と題するコラムが2回にわたって掲載された。その中でサラリと紹介されていた二つの事例、掘り下げてみると非常に興味深いことがわかる。
コラムではもう一つの事例が紹介されている。
アップルストアで、日本のベンチャー企業が作ったiPhone用のゲームが、全米でダウンロード第1位になったとある。NIKKEI NETでは記事がなかったが、別のサイトにリリースを見つけた。
http://japan.internet.com/release/19411.html
コラムではゲームとしてのおもしろさだけでなく<他のゲーム機専用機向けのソフトが数千円するなか、当初0.99ドルとお試し感覚の値段が人気を呼んだ>と分析している。
上記の2月13日付のリリースでは<無料版である「LightBike Free version」は、20日間で総計60万ダウンロード><有料版の「LightBike Full version」も現在1日1万5,000ダウンロード>とある。実に驚異的な売れ行きではないか。開発したのは株式会社パンカク
という創業2年、資本金1000万円の会社だ。
この事例もプライシングの妙である。新製品の上市に際して、圧倒的な低価格によって市場のシェアを取りに行く価格戦略を「ペネトレーション・プライシング」という。Penetrationという言葉の意味そのままの「市場浸透策」である。
いかにすばやく市場に浸透させ、シェアを取るかがキモであり、そのために顧客がとにかく買いやすい低価格をつける。利益は採算ギリギリだ。それ故、競合もなかなかそこまで踏み込めないため、参入障壁を築くことができる。競合が躊躇する間にさらにシェアを取ってポジションを強固なものにする。
利益の少ないペネトレーションで、どうやって儲けるのか。それは、継続的に生産していく場合、数を多く作ることで習熟度を増して生産効率が高まる「経験効果」によって、コストを下げて利益を創出するのである。
では、ソフトウェアの場合どうなのか。一旦、プログラムが作り上げられたら、特にダウンロード型のソフトであれば、それ以降の作業は基本的には発生しない。収益は開発コストを回収してしまえば、全てバージョンアップや新製品の開発に回せる。つまり、ペネトレーションに向いているともいえる。
ではなぜ、他のゲームは高価格なのか。それは、プライシングが投資回収を多分に意識しているからだといえる。大作のゲームの場合、開発費も凄まじい金額に膨れあがる。億単位になることもあるという。
投資回収を第一に考えるプライシングを「スキミング・プライシング」という。Skimとは上澄みをすくい取ること。高価格・高利益率の価格設定でできるだけ早く投資を回収することを目的とするのである。
「LightBike」というゲームにどの程度の開発費がかかっているか知る術はないが、ゲームとしては異例のペネトレーションで勝負をかけたことが売れた理由と儲かった理由なのだろう。
モノが売れない、利益が出ないという話を良く耳にする。事実、財布の紐が固くなっている消費者相手では容易なことではない。しかし、売れるものもある。儲かっている企業もある。今回の二つの事例は「普通にやっていたのでは、売れないし儲からない」ということを教えてくれているといえるだろう。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。