どこにでもある、ありふれた「コモデティー品」や、もはや使用する人も少なくなった、プロダクトライフサイクルの「衰退期」にある商品。そんな商品が思わぬヒット商品に化けることもある。2つの商品を例に、そのヒットのヒミツを探ってみよう。
プロ用の使い捨て資材を、「おしゃれでかわいい小物小物」に昇華させた「mt(masking tape)」。ヒットのヒミツは価値構造の組み替えなのだ。
もう一つのヒット商品を紹介しよう。こちらは、「知る人ぞ知る」という隠れたヒット商品であるが、静かに全国に浸透し、海外進出まで果たしているようだ。
「こけしマッチ」。
商品紹介のページへのリンクを下に記すが、商品写真を見て吹き出さないように注意いただきたい。
http://www.kokeshi-m.com/kokeshi.htm
マッチである。ただのマッチだ。ただのマッチに顔が描いてあるだけ。それだけ。
しかし、その顔がいい。なんともトボケた表情が心地よい脱力感を与えてくれる。マッチ箱のヘタウマっぽいイラストと、「人生のともしび」というコピーもいい。
きょうび、マッチを使う機会などめったにない。プロダクトライフサイクルで考えれば、もはや衰退期どころか消滅寸前のプロダクトである。
しかし、マッチに顔を描いただけで、「こけしマッチ」は、もしかすると生まれてこの方、マッチを擦ったこともないような新規ユーザーを獲得し続けているのだ。
マッチの中核的価値は当然、「火を点けられる」である。実体は「どこにでも簡便に持ち歩ける」だ。付随機能は何かといえば、パッケージのデザインだろう。そうした人もほとんど見かけないが、パッケージの意匠に惹かれてコレクションをしている人もかつては多かった。
マッチの持つ価値構造の、中核と実体は、今日では完全にライターが代替している。喫煙者がいない家庭でも、1つ100円で購入できるため、ライターの一つや二つはあるだろう。
「こけしマッチ」はマッチの持つ、付随機能を極限まで高めたと解釈できる。
つまり、「趣味のコレクション」としてのマッチである。パッケージに楽しい絵が描いてあるなら、マッチの頭にも絵があった方が楽しいだろう。そんな価値構造の転換が発想の原点ではなかっただろうか。
同サイトには<使い方はいろいろ。マッチをすって燃えゆくマッチにちょっと罪悪感をおぼえたり、色んなマッチたちをコレクションしてみたり>とある。しかし、恐らくこのマッチを本来の「火を点けられる」という価値を実現するために用いる人はいまい。何といっても、このマッチ、4箱で1,000円もするのだ!擦って燃やしてしまってはもったいない!
燃やさないマッチ。価値構造を転換させることによってヒット商品となる例として、この「こけしマッチ」は大いに参考になるだろう。
商品の持つ価値構造を組み替えたり、転換したりすることによって、ヒット商品は生まれる。既成概念だけで考え、「モノが売れない」と嘆く前に、柔軟な発想をしてみることが必要なのだ。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。