わずか3年で約100店を新規出店。23区内「どこへでも」配達を実現するためにカクヤスが採った拡大戦略だ。しかし、結果はぼろぼろ。全店の半数以上が赤字となった。崖から転げ落ちかけた同社を救ったのが、Amazon、アスクルに並ぶ『カクヤス・モデル』である。
「酒屋のディスカウントショップが、ちょうどあちこちにでき始めた頃でした。これがみんな、すごく流行ってるんだよね。おれもあんな商売やってみたいなあ、なんて思っちゃったんですよ」
幸い、佐藤家には酒販免許が二つあった。だからコンビニを改め、酒のディスカウントショップとして出直すことは可能。とはいえ、そもそもコンビニ用の店舗だから店は狭い。その上、動線を考えれば立地条件は最悪だ。
「ディスカウントショップって本来は郊外のロードサイド立地に倉庫タイプの店でやるからこそ採算が合うんですよ。大量陳列でセルフサービス、ゆえに安くできる。ところがうちは店小さい、クルマ入れない、大量陳列できない。まさに三重苦ですよね」
ディスカウントショップとして成立するための条件は何一つない。それでなくともそもそもビールはメーカーの力が強く、価格の縛りが厳しい商品である。わずかな値下げがたちまち利益率に跳ね返ってくる。
「値段はそれほど安くできない、場所はだんぜん悪い。自分がお客様だったら、絶対に行かないよなという店の経営者になるのって、なかなかの心境ですよ。自暴自棄ってこういう気持ちのことなんだって思いましたから」
しかしである。ただ一つだけだが、かすかなチャンスがあることに佐藤社長は気付いていた。お客様が来てくれないのなら、お客様のところまで持っていったらどうなんだと。まさに逆転の発想である。
「不幸中の幸いというか、バブルが弾けたおかげで業務用のクルマと人が余ってる。これを使えば配達できるよなって。放っておいてもコストはかかってるわけだから使わなきゃ損。じゃあ配達やるならどこまでだって、まず考えたのが商圏設定です」
とりあえず店を中心として半径1キロの円が描かれた。すると近くにある大きな団地が引っかかってくる。
「ところが1キロって決めてしまうと団地が全部入りきらない。そこで団地をくまなくカバーするためにと割り出されたのが1.2キロ。今にして思えば、これこそまさに神さまが与えてくれた数字なんでしょう」
半径1.2キロの商圏設定は、今のカクヤスの原型である。仮に商圏が1.5キロだと配送効率は倍ほど悪くなり、逆に1キロまで縮めてしまうと販売効率ががくっと落ちる。業界では『カクヤスモデル』といわれる家庭用宅配酒販店の理想的な商圏設定1.2キロは、まったくの偶然から生まれた数字だったのだ。
⇒次回「運命の年1998」へ続く(全四回)
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FMO第20弾【株式会社カクヤス】
2009.02.24
2009.02.17
2009.02.10
2009.02.03