『ブランドは広告ではつくれない』 という極論を説く本がありますね。 企業がお金を出して媒体スペースを購入し、 自社の広告を掲載しても、自画自賛に過ぎない。 だから、消費者は広告を信用しないし、目もくれない。
むしろ、「パブリシティ(=広報)」、
つまり「プレスリリース」などを媒体に送付し、
「記事」
として記者に書いてもらい、
媒体に掲載されることに力を入れるべきだ
という趣旨の内容でした。
実際、「パブリシティ」は、
「広告費」
がかからないこともあって、
近年注目する企業が増えています。
もちろん、「記事」として取り上げてもらうためにも、
相応のコストが必要ですけど。
ただ、パブリシティには「落とし穴」があります。
それは、広告と違って、
記事として掲載されるかどうかは
「媒体側の裁量」
にかかっているという点です。
お金を出せば、原則として掲載してもらえる
「広告」
とは違います。
今、「媒体側の裁量」と書きましたが、
要するに、その媒体の読者に対して伝えるだけの
「ニュース価値」
があるかどうかで判断されるということです。
ただ、企業側としては、
「ニュース価値」
を客観的に判断するのはなかなか難しいようです。
「記事として取り上げて欲しい」
という独りよがりな思いが強くなりすぎて、
媒体、いや「読者」にとって知る価値があるかどうかを
考えられなくなりがちなんですよね。
ヴェルディ川崎の広報部長や、
プランタン銀座の広報担当取締役などを歴任された
尾関謙一郎氏は、読売新聞の駆け出しの記者だったころ
次のような経験をしています。
(PRIR、2008 November)
1987年末、おおみそかの日、
尾関氏は、大手百貨店のカリスマと呼ばれる
有名経営者とアポを取り会いました。
その経営者は、
“あす(つまり元旦)の一面トップを飾るネタを提供しましょう”
と尾関氏に切り出したそうです。
元旦一面トップを飾るとなると、
“大手百貨店との合併か、あるいは有名海外デパートとの提携か”
と尾関氏は期待しました。
ところが、そのネタというのは、
グループ内に「専門店チェーン」をつくるという話。
(なあんだ・・・)
当時の流通業界において、
百貨店が専門店チェーンの展開に乗り出すのは
画期的なことではありました。
しかし、一般読者にとってはその意義がよくわかりません。
つまり、ニュース価値はあまり高くないわけです。
どうやら、この経営者は、
自分が属する流通業界の枠の外に出て考えるということが
できなかったようですね。
結局、このネタは、元旦どころか、
3月になってやっと
「経済面3段」
に掲載されたそうです。
「パブリシティ」に力を入れるのは結構ですが、
自社のプレスリリースの内容の
「ニュース価値」
について、客観的な視点で厳しく評価すべきなのです。
『ブランドは広告ではつくれない』
(アル・ライズ、ローラ・ライズ、共同PR、翔泳社)
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社シャープマインド マーケティング・プロデューサー
これからは、顧客心理の的確な分析・解釈がビジネス成功の鍵を握る。 こう考えて、心理学とマーケティングの融合を目指す「マインドリーディング」を提唱しています。