筆者は40歳を前に、3社、16年に渡るサラリーマン生活に終止符を打ち、独立・起業し、現在4期目に入っている。昔の言葉でいえば「脱サラ起業」となるのだろうが、しかし、同じような経緯を辿った人でも意外とその狙いやゴール設定、そして仕事術は異なるようだ。そうして考えると、自らは「起業家」ではなく、「職人」なのだと改めて感じた。
大学で非常勤講師として「ベンチャービジネスとマーケティング論」という講義を持っている。売り手市場となった就職戦線を反映し、学生の起業熱はここ2年ほど低い状態にあるが、4年ほど前は、なかなか内定がもらえず「起業して一発逆転」を夢見る者もいた。「ヒルズ族」華やかなりし頃であったため、無理からぬことではある。
しかし、翌年からライブドアや村上ファンドの問題が続々と露わになり、一方、景気も上向き就職も希望が叶いやすくなってきたことから、前述の通り学生の起業熱は低下していった。現在、それでも起業したいという希望を持っているのは、いわゆる「好きを仕事にしたい」という考えの者だ。デザインだったりITだったり、はたまたイベントや飲食など、自分の好きな道で食べていきたいという、言ってみれば学生らしいピュアな希望に戻っているように感じる。
学生らしい起業希望理由は上記の通りなのだが、社会経験を積んだ上で起業する人にも同じような分類が当てはまるのではないかと最近思うようになってきた。いわゆる「起業によって大きなチャンスを手にしよう」というのか、「好きを仕事にしよう」とするのかである。
筆者の場合、サラリーマンとしての最終役職は部長職であった。部長職といってもプレイングマネージャーであったのだが、経営層から徐々にマネジメントに徹せよというプレッシャーが高くなってきた。
「40歳を前に自らの成長を止めたくない」。が、独立の理由であった。「職人道を極める」ことを目標としてみようと思ったのだ。「マーケティング職人」である。つまり、職人として、好きを仕事にしようというわけだ。(ちなみに、マーケティングという領域は広いが、筆者は「マーケティング・コミュニケーション」が専門であり、「顧客との関係最適化」が得意領域である。)
職人故、会社規模を大きくしようという計画はない。また、間違ってもIPOをして、上場益をエンジョイしようというような野心は全くない。
お一人様起業で、職人としてビジネスをしていく最大のメリットは、人を抱えているリスクがないということだ。人件費は仕事があろうとなかろうと、その人材が優秀であろうとなかろうと、常に一定の支出として発生する。筆者は一昨年、不慮の事故で1ヶ月半の入院生活を送ったが、独立2年目の時点で社員を抱えていたら完全にアウトだったと思う。もちろん、自分が稼がなければ誰も稼いでくれないというのは正反対の弱点にもなるのだけれど。
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2008.06.02
2008.06.04
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。