トイカメラ人気の秘密と、次に流行るもの

2008.05.13

営業・マーケティング

トイカメラ人気の秘密と、次に流行るもの

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

デジタルカメラ全盛の時代にちょっと不思議な流行が起こっているようだ。その理由と、次に流行りそうなものを考えてみたい。

日経新聞5月13日の朝刊・消費面に<トイカメラ 光る個性、若い世代つかむ ピンぼけにもにも味わい>と題された記事を発見。
「トイカメラ」は樹脂でできた筐体に安価なレンズという極めて単純なフィルムカメラだ。露光の電子制御などしてくれないし、ピントもオートフォーカスではない。いや、そもそもレンズの精度が怪しいので、仕上がりは何とも不思議なボケ味の効いたものになる。そこがファンの心をつかんでいるのだ。

今日のデジタルカメラは、失敗というものを徹底的に排除する進化を遂げている。逆光、暗い背景なんのその。動く被写体もピタリ。人間の顔を検出して、他にピントが合ってしまうことも防止してくれる。さらに被写体が笑顔になったときには自動でシャッターが降りるという。さすがにシャッターぐらい押させてくれよという気にもなるが、本当によくできている。しかも、撮った写真をその場で確認できるのだ。

道具の変化は、写真文化そのものも変質させている。フィルム代がいらなくなったことから、撮影数(ショット数)は、以前より爆発的に増えているのだが、プリント数が激減しているのだ。写真屋さんに出さないだけではない。家のプリンタで出力することもしない。パソコンの画面で見る。もしくは、デジタスカメラに使うメディアの容量が2GBや4GBにもなっていることから、そこに延々とため込んで、カメラ背面の液晶画面も大型化していることから、その画面で以前撮った画像を見るというような使い方が主流になってきているのだ。もはや「写真」という概念は完全に変質してしまっている。

トイカメラに話を戻そう。実はそこに、失われつつある本来の写真文化への回帰を筆者は見て取った。日経の記事中に、トイカメラを見に来た二十代女性の来店客のコメントがあった。<現像するまで出来映えが分からないワクワク観が人気の秘密>。そう、まさにこれなのだ。筆者は実は写真オタクでもある。デジタルカメラも使っているが、フィルムカメラもどうしても捨てられずに現役として使っている。自分としてはこんな風に写したいと頭でイメージし、そのイメージに近づけるため様々なテクニックを駆使してシャッターを切る。現像してプリントが仕上がるまでのワクワク感。そして、意図したように撮れていたときの喜び。または、意図していないような仕上がりだが、なんとなく気に入った時のうれしさ。そうしたデジタルカメラでは味わえない感覚が昔の写真にはあったのだ。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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