既存の企業、あるいは製品・サービスの持つブランド力を「テコ」として活用し、同一カテゴリーのバリエーションを増やしたり、隣接カテゴリー、あるいはほとんど関係のないカテゴリーに進出する。
上記の企業活動は、いわゆる「ブランド拡張」と呼ばれます。ブランド拡張の難度は当然ながら、ほとんど関係のない分野に進出する場合に高くなりますね。
既存のブランドの強みが、進出先のカテゴリーでは活かせなかったり、あるいは、既存のブランドの持つイメージが新カテゴリーのあるべき特徴とは違和感を
感じるリスクがあるからです。
過去の事例では、例えば1980年代に、ハーレー・ダビッドソンが「タバコ」や「ワインクーラー」などのカテゴリーにハーレーブランドの製品を展開しましたが、あっけない失敗に終わっています。タバコは、ハーレーのイメージと多少重なるところがあるように思いますが、ワインクーラーになると、かなり違和感を感じますよね。
さて、日本における近年のブランド拡張例として興味深いのは、富士フイルムの化粧品「アスタリフト」やサプリメントの「メタバリア」「オキシバリア」など、「ヘルスケア」カテゴリーへの展開です。
これらの製品は、製品独自のブランド名だけでなく、企業ブランドである「富士フイルム」も同時に強調したコミュニケーションを展開していますね。
富士フイルムは、その社名通り、「カメラ」や「フイルム」カテゴリーのトップブランドとしてのイメージが定着しています。したがって、「富士フイルム」という企業ブランドを「ヘルスケア」カテゴリーにおいて前面に出すのは、ブランディングの定石からは外れています。
しかし、同社では「富士フイルムだからできること」というWebサイトのページでも説明されているように、同社の写真研究の歴史の中で培われた、コラーゲンや活性酸素をコントロールする「ナノテクノロジー技術」が同社の強みだと伝えることで、ヘルスケア製品の効果や信頼性・安全性に「お墨付き」を与えることを狙ったようです。
広告展開もなかなか巧みだと思いますが、直接肌に触れる化粧品や、体内に入れるサプリメントだからこそ、「信頼できる」「安全できる」と消費者に感じてもらう必要がある、そのためには「富士フイルム」という企業ブランドを強調することが得策と判断されたのでしょう。
結果として、この戦略は成功を収めつつあるようです。(同社のブランドイメージ調査などの結果を見ていないので一消費者としての実感に過ぎませんが)
これはちょっと後付け的解釈ですが、デジカメの急速な浸透により、一般の消費者における、カメラやフイルムカテゴリー自体の存在感が急速に薄れつつあります。そして、こうしたカテゴリーの存在感の低下に伴い、富士フイルムのブランドイメージもある種、希薄化しつつあった。
だからこそ、カメラやフイルムとはほとんど関連のない「ヘルスケア」カテゴリーでも、同社は、以前ほどの違和感を与えることなく、スムーズに新たなブランドイメージを再形成できているのかもしれません。
とはいえ、社名に‘フイルム’が入っているのはやはりちょっとひっかかるものがあります。「富士フイルム」という社名が、現在塗り替えられつつある新たなブランドイメージに合致したものに変更される日も近いかもしれません。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社シャープマインド マーケティング・プロデューサー
これからは、顧客心理の的確な分析・解釈がビジネス成功の鍵を握る。 こう考えて、心理学とマーケティングの融合を目指す「マインドリーディング」を提唱しています。