「マニュアル対応の弊害」はよく言われることではあるが、マニュアルとて、正しく運用さえすれば良質な応対が実現できる。そして、さらにその先の世界があることも理解しておきたい。
同様に、マニュアル・レスで良質な顧客対応を実現している例を筆者はもう一つ知っている。文具販売の老舗。「銀座伊東屋」である。以前、コラムで執筆した内容であるが、今一度紹介したい。
筆者は外国製の革手帳を肌身離さず持ち歩いている。コラムや各種原稿の他のネタ帳である。しかし、うっかり手帳のリフィルを切らしてしまった。伊東屋へ行ったが、店頭になく取り寄せに時間がかかるとのこと。ネタ帳無しでは過ごせない。途方に暮れていた筆者に対し、店員は何の躊躇もなく新品からリフィル部分を取り外し「ご不自由でしょうから、こちらをお使いください」と差し出してきた。
なぜそんなすばらしい顧客対応ができるのか。よほどよくできたマニュアルがあるのだろうかと、伊東屋の広報に電話取材をしてみた。すると、「当社にマニュアルはございません」という。マニュアルは店員の”考える力”を奪い、画一的な接客しかできなくなるためあえて作らないという、前会長のこだわりだそうだ。
その代わりに同社は、自分自身がお客様の立場になってうれしいと思うことは何でもしなさいと教育する。例えばボールペンの替え芯一本だけをお買い上げのお客様が、他にもお手荷物をたくさんお持ちのようであれば、「大きな手提げにおまとめ致しましょうか」というような声掛けをしなさい。というように、微に入り細をうがつように指導をするという。
顧客対応には正解もゴールもない。マニュアルの運用であれ、マニュアル・レスの考える対応であれ、どちらでもお客様中心主義(顧客セントリック)で行動することが肝要なのだ。マニュアルを教え込むのではなく、その本来の意味や、自らがどう行動するべきなのかを考えさせる教育が望まれる。
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2008.04.15
2008.06.18
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。