劇場にしばらく足を運んでいない人が多くなったいま、2019年は、映画界にとって記念すべき“いい年”になったようだ。 というのも、現在の公表形式に変わった2000年以降、史上最高の興行収入2550億円に到達する見込みだといわれているからだ。同様に入場者数も過去最高になるという。 映画会社系列シネコン(シネマコンプレックス)大手3社が入場料を100円アップし、最大1900円に価格変更しながらのこの快挙は、いったい何が功を奏したのか、今回はその理由を探ってみよう。
また、安心して見られる映画だけでなく、エッジの効いた大人向け作品も2019年は大ヒットを記録した。バットマンの敵役として有名なジョーカーが、凶悪な殺人鬼へと変貌を遂げるプロセスを描いた映画『ジョーカー』は、米国でR指定映画(年齢制限を設けた作品)の興行収入の記録を塗り替え、日本でも大ヒットとなっている。
注目は、ディズニーの『アラジン』、そして『ジョーカー』は、それぞれ映画館の閑散期といわれる6月と10月に公開されている点だ。従来なら客足の落ちる時期に、こうした実力ある作品が発表されたことも、全体の興行収入を押し上げた理由ともいわれているようだ。
さらに洋画ばかりでなく、邦画でもアニメばかりでなく、『翔んで埼玉』や『キングダム』など、映画業界を超えて、ニュースなどで話題になるほどの力作がラインアップ。全体の興行収入を押し上げた。
観客本意の環境を整えた映画館の努力が実った
史上最高の興行収入は、確かに昨年発表された作品の実力に負うところは大きいのだが、それだけではない。いっときどん底を経験した映画会社、映画館の懸命な回復への努力も見逃せない。とくにここ数年、映画館は大きく変貌を遂げている。
そのひとつがシネコンの存在だ。シネコンとは「cinema complex」の略で、ひとつの建物の中に、複数のスクリーンを持つ映画館のこと。
スタートは、地方都市の主要道路沿線に、大きな駐車場をそなえたショッピングモールなどと併設され、地方の活性化にひと役買うことが目的とされたのだが、このシネコンのスタイルは成功し、次第に定着していった。そしてここ数年、東京など大都市のターミナル周辺にも、続々シネコンが誕生している。
例えば東京の新宿には、駅周辺のたった数百メートルの範囲内に3つもシネコンがある。どれもが同じ映画を同じタイミングで上映することも多いのだが、人気作品ともなれば、どのシネコンも満員ということがしばしばある。
鑑賞スタイルが変わり、アトラクションと化したシネコン
でも、なぜこんなにシネコンに人が集まるのか? シネコンは、かつての映画館とはずいぶん趣が異なることをご存じだろうか?
たとえば新宿のあるシネコンの場合、ひとつの建物に12ものスクリーンがある。今公開中の話題の映画がズラリとならんでいて「どれでもお好きな作品をどうぞ」という品ぞろえだ。しかもロビーの電光掲示板には、どの映画が満席なのか、あるいは空席があるかがひとめでわかるように表示されており、それによって人気の度合いもすぐにわかる仕組み。
さらに、ひとつひとつの場内の座席数は限られているものの、事前予約と定員制が徹底しているため、立ち見という概念はない。その代わり1日に5回くらい上映を重ねるので、その回が見られなくても、チケットだけ購入しておいて、少し時間をつぶせば次回の上映は必ず座って見ることができることになる。
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