インターネットを介して有志からの出資を募り、さまざまなプロジェクトを実現させる「クラウドファンディング」。みなさんご存じの通り、クラウドファンディングは利用者・活用の場が年々拡大しており、2020年には世界の市場規模が900億ドル(約10兆円)に達するとみられている。 そうした中、資金繰りに窮する日本の美術館・博物館でも、施設改修や展覧会のプロジェクトにクラウドファンディングを活用する動きが活発化。目標額に達せず失敗に終わるケースもあるが、出資者を一気に集めて成功するプロジェクトも多く、業界関係者からは大きな期待が寄せられている。 そこで今回は、成功を収めた国内美術館・博物館のプロジェクト事例を紹介しながら、ミュージアム産業におけるクラウドファンディングの可能性と課題について考察する。
クラウドファンディングを活用したプロジェクト事業は、2001年に独立行政法人となり、財政の自立が求められる国立ミュージアムにも広まっている。国立科学博物館(東京都台東区)は、3万年前の航海を再現するプロジェクトで2016年から出資を募り、約6000万円の資金を調達。そして今年(2019年)7月、丸木舟で台湾から与那国島に向かう実験航海のプロジェクトを見事に成功させた。
国立6美術館(東京国立近代美術館、国立西洋美術館、国立新美術館、京都国立近代美術館、国立国際美術館、国立映画アーカイブ)でも、今年3月に合同の専用サイトを立ち上げ、クラウドファンディングによるプロジェクト事業をスタート。第一弾となる国立西洋美術館(東京都台東区)のクラウドファンディングでは、クロード・モネの絵画をデジタル推定復元するプロジェクトで、目標額の3000万円を早々に達成。デジタル復元された画像は、今年6月~9月開催の「国立西洋美術館開館60周年記念 松方コレクション展」で公開されている。
クラウドファンディング×施設運営における今後の課題
もちろん、どれほど魅力的なプロジェクトを企画しても、PRが足りなければ賛同者は集まらない。とくに、ミュージアム系のクラウドファンディングでは、プロジェクトの趣旨や必要性をいかに工夫してPRできるかが成否を分ける。
とはいえ、賛同を得るプロジェクトを絶えず打ち出していくには限界があり、継続的な資金調達の手段として、やみくもにクラウドファンディングの「善意」に依存するのはリスクもある。クラウドファンディングをどこで・どう活用し、施設を維持する体力と企画力、情報発信力を蓄えていくかが、今後のミュージアム運営の課題となってくるだろう。
── こうして、いまミュージアム産業にも広まりつつあるクラウドファンディング。その言葉自体は比較的新しいものだが、「有志から資金を募って何かを実現させる」という手法は、アートや文化事業の分野でも古くから存在している。たとえば、芸術家を経済的に支援するパトロンや、寺院・仏像などの建立・修復に寄付を募る「勧進(かんじん)」など……。これと同じことが、インターネットによって誰でも気軽に実現できるようになった今、現代のパトロン・勧進の輪が地域を超えて広まり、社会に根づいていくことを期待したい。
※参考/国立美術館CFサイト、国立科学博物館HP、朝日新聞、日本経済新聞
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