都会で働くビジネスパーソンにとって、毎日の通勤はひとつの試練といえるかもしれない。 朝も夜もすし詰めの満員電車に長時間揺られて、心身ともにクタクタ&ヘロヘロ……まさに「痛勤」である。 そんな通勤ラッシュの苦痛を解消してくれるのが、首都圏を中心に鉄道各社で導入が進む「有料着席サービス」だ。定期券に数百円の追加料金を払えば、ゆったり座って乗車できるので、通勤客からの評判は上々。時間帯によっては、連日ほぼ満席になるほどの人気ぶりという。通勤電車の混雑緩和が足踏みする中、各社は最新型の特急車両を投入するなど、快適さを競ってサービスの拡充に力を入れているようだ。 そこで今回は、年々激化する有料着席サービス競争の背景と、首都圏の大手鉄道各社の動きにフォーカスする。
また、有料着席サービスの新たな取り組みとして業界で注目されているのが、東急電鉄が2018年に始めた「Qシート」だ。大井町線を経由する7両編成の急行で、1両だけ有料の座席指定車とする分割方式を導入。乗車人数が少ない有料着席電車を、朝晩の過密ダイヤに組み入れるのは難しいが、1両限定という形であれば導入しやすく、ダイヤ改正なども少なくて済むという。Qシートの平均乗車率も9割と好調で、過密ダイヤの調整に頭を悩ませる私鉄他社でも、今後、同様のサービスが広まるとみられている。
通勤ラッシュが解消しない中、「必ず座れる」のが魅力!
各社の有料着席サービスが人気を集める背景には、過酷な通勤ラッシュがいまだ解消されない現状がある。国土交通省によると、1975年度に221%だった首都圏主要区間の混雑率は、2009年度に167%まで改善。しかし、その後はほぼ横ばいで、2017年度は168%と足踏み状態が続いている。
そうした中、数百円の追加料金で「必ず座れる」のは、日々「痛勤」するビジネスパーソンにとって何よりの魅力だろう。さすがに毎日利用するのは経済的負担が大きいが、いざという時だけでもラッシュを回避できる通勤手段があるのは、やはり心強いものだ。とくに、病気・ケガで体の具合が悪い時や、妊娠中で体調が不安定な女性にとって、着席保証は大きな安心感にもつながる。
また、毎日の通勤時間を有効活用できるのも大きなメリットだ。たとえば、通勤に片道1時間かかるとすると、週5日勤務で1週間に10時間、1ヵ月で約2日分、1年で約3週間分の時間を通勤に費やしていることになる。この膨大な時間を移動だけに費やすのは、あまりにももったいないだろう。実際に通勤時間帯の有料着席電車に乗ると、朝から語学や資格取得の勉強に励む人、PCで書類を作成する人、夜はビール片手にくつろぐ人の姿も多く見かける。
有料着席サービスは鉄道会社にもメリット大
通勤客に喜ばれる有料着席サービスは、鉄道会社にとっても大きなメリットがある。高い乗車率で収益を上乗せできるうえ、「ライナーで通勤がラク」という好条件あれば、沿線のブランドアップ+住民獲得にもつながるからだ。さらに、沿線の住民が増えれば、鉄道の利用者も増え、将来的な収益も確保できる。各社がサービスに力を入れる理由には、こうした長期的な狙いもあるだろう。
現在、全国の大手私鉄16社のうち、11社が有料着席サービス専用列車を導入し、首都圏では都心に乗り入れる全私鉄のサービスが出そろった(図表参照)。そうした中、「TJライナー」などを運行する東武鉄道は、2020年から東武線と日比谷線の直通電車でも有料着席サービスを開始すると発表し、サービス路線のさらなる拡大で差別化を打ち出す狙いだ。
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