政府は今年(2019年)4月9日、2024年度上期をメドに1万円札・5千円札・千円札の新紙幣を発行すると発表。500円硬貨についても、素材や意匠を変えた新硬貨が2021年度上期に発行されることになった。 紙幣の刷新は2004年以来、20年ぶりとなる。新元号「令和」の公表からわずか1週間というタイミングでの刷新発表に、お祝いムードに乗じた政略だと批判の声も聞かれるが、関連業界では紙幣の切り替えによる「特需」の期待も高まっているようだ。ただ、現金を使わないキャッシュレス決済が急速に広まる中、その経済効果は限定的とする見方も強い。 そこで今回は「キャッシュレス時代に向けた紙幣刷新」と題して、その背景や目的とともに、新紙幣が社会経済にもたらす影響について考えてみたい。
「特需」は約1兆6000億円と試算されているが……
では、20年ぶりの紙幣刷新によって、どのような経済効果が見込めるのだろうか。
発表があった4月9日の東京株式市場は、紙幣識別機など特需への期待から、関連機器メーカーの株価が軒並み高騰。前日終値より7.9%高で取引を終えた国内最大手の紙幣処理機器メーカー「グローリー」は、前回の刷新時に前後3年間で売上高が約900億円拡大する特需に沸いたという。
今回の刷新でも同社をはじめとする機器メーカーのほか、さまざまな関連業界に相当の特需をもたらすと期待されている。第一生命経済研究所の試算によると、新紙幣と500円硬貨の発行に伴う原材料・インクなどの需要で6114億円、機械の改修と買い替えでATMメーカーに3724億円、自販機メーカーに6064億円と、合計で約1兆6000億円の経済効果が見込めるという。
一方で、日常生活の中で現金を使う機会は少しずつ減り、銀行はATMの削減に動いている。最近はQRコードによるキャッシュレス決済も急速に広まり、現金お断りの飲食店すら登場する時代となった。新紙幣が出まわる5年後には、現金を扱う自販機やATMがさらに減っている可能性も高く、前回と同様の特需となるかは不透明との見方も強い。
家庭で眠る約50兆円の「タンス預金」をあぶり出す
とはいえ、日本はまだまだ現金志向が根強く、キャッシュレス化の流れが強まる中で、紙幣の流通量はむしろ増えている。日本銀行によると、1万円札の発行高は2019年3月時点で99兆7000億円。現在の紙幣に切り替わった2004年当時の約65兆円から5割増、ここ10年間でも3割増加している。
現金流通が多い背景には、日銀の超低金利政策のもとで、銀行に預けられずに家庭で眠る「タンス預金」の存在がある。現在、国内のタンス預金の残高は約50兆円とみられ、現金の全流通量の約半分を占める。今回の紙幣刷新は、あくまでも最新の偽造防止策を講じることが一義的な目的だが、政府はこの巨額なタンス預金をあぶり出し、消費や投資を活性化させる副次的な効果も狙っているようだ。
新紙幣導入はキャッシュレス化の追い風になる可能性も
一方、政府は2025年までに国内のキャッシュレス決済の比率を、現在の20%から40%に上げる方針も掲げており、今年10月の消費税増税に伴うポイント還元の対象もキャッシュレス決済を条件にしている。
紙幣刷新とキャッシュレス推進……一見、相反する動きのように思えるが、新紙幣の導入によってお金に新たな流れが生まれ、年間2兆円とされる現金の運用コストにあらためて注目が集まれば、キャッシュレス化の追い風にもなるだろう。そうした意味で、今回の刷新はこれまでのような「特需」だけではなく、「キャッシュレス推進による経済活性化」につながる可能性も秘めているのだ。
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