ものやサービスの値段は時代によって変わるものです。「高い」「安い」の基準になっている貨幣の価値も時代によって大きく変わります。 さまざまな分野のものやサービスの「お値段」を比較してみましょう。 4月は、新しいことに挑戦する絶好の季節ですが、ここ20年ほどのことでしょうか。中高年の世代で新しく楽器を習い始める人々や、あるいは昔習っていた人があらためて習い始めるといったケースが増えているようです。そのため、音楽教室などではシニア向け楽器入門の講座に力を入れています。 なかでも一番人気はピアノ。昔、家ではピアノが買えなかったけど、春から挑戦してみたい……というシニアの方も多いかもしれません。というわけで、今回はピアノのお値段の変遷を見てみましょう。
エリートの給料の20ヵ月分!
ピアノがヨーロッパで発明・試作されたのは、17世紀のこと。イタリア・フィレンツェの大富豪メディチ家に仕えた楽器製作者が製作したものが「ピアノの始まり」ともいわれ、一説によると、ピアノを最初に手にした作曲家はバッハともいわれています。そして時が過ぎ、日本では明治維新の二十数年前にピアノが輸入されています。
国産ピアノが初めて作られたのは、明治31(1900)年のこと。このときの値段は記録に残っていませんが、明治39(1906)年に作られたグランドピアノは750円。当時の大学卒の銀行員の初任給が35円でしたから、現在の貨幣価値から考えると給料の20ヵ月分に相当し、約400万円以上になるでしょうか。もちろん、海外からの輸入品の値段はこの価格の数倍しました。
ただし、ここで比較している大学卒の銀行員とは、当時の超エリートを指します。尋常小学校の教員の初任給が12円程度でしたので、双方を比較してみると、当時のピアノは、大多数の給与生活者の趣味で買えるようなものではなかったことがわかります。
そして、昭和9(1934)年の国産ピアノの値段は950円。小学校教員の初任給が50円程度だったことからも、ピアノはまだまだ高嶺の花でしたが、国産ピアノの普及によって、多少敷居が低くなってきたことは間違いありません。
大衆化するピアノ
ところが、戦争によって国産ピアノの生産は中止されてしまいます。
生産が再開された昭和26(1946)年の、グランドピアノの値段は17万8000円。当時の銀行員の初任給が4000円~5800円でしたので、給料と比較すると、30ヵ月分以上と大きく値段が上がってしまいました。その後もピアノは比較的高い水準を保ちますが、戦後、景気の拡大に伴って給料は大きく上昇しましたから、ピアノの値段も相対的に下がってきます。
昭和41(1966)年のグランドピアノは36万円、アップライトが20万円。
銀行員の初任給が3万500円ほどですから、アップライトでしたら給料の約半年分になり、一般の家庭でも今年のボーナスでピアノを買おうか、という状況になってきました。
さらに、子どものお稽古ごとのひとつとしても急速に普及し、大衆化が進んでいきます。大手の楽器メーカーが全国にピアノ教室を展開するのもこの時期からでしょう。
現在では新品の一般的なグランドピアノが120万円程度で、アップライトは70万円程度です。もちろんコンサートで使われるようなピアノは、数千万円します。
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