「食券制が松屋の魅力」「会計を待たなくていいから、食べ終わったらすぐ帰れる」――こんな基準で牛丼チェーンを選ぶ人もいるのでは。 松屋はほぼ全店で券売機を導入しているのに対し、吉野家とすき家では店員が注文を聞いて会計も行うスタイルにこだわっていた。また、大手ラーメンチェーンの日高屋が券売機の導入を本格的に進める方針を打ち出している。 外食チェーンにとって、券売機とはどのような存在なのだろうか。
今回、券売機を導入する背景にあるのは深刻な人手不足だ。店舗の生産性を上げるためには必要なアイテムだと判断した。また、「売上高に占めるアルコールの比率がやや落ちています」(広報担当者)というトレンドもある。店で何杯もアルコールを追加注文するお客が減りつつあるので、券売機を導入する悪影響は以前より少なくなってきていると判断したようだ。
吉野家が店員の接客にこだわる理由
では、吉野家のケースを見てみよう。これまで試験的に券売機を導入したことはあるが、現在はどの店舗にも置いてないという。
経済誌『プレジデント』(07年10月1日号)のインタビューで、吉野家の安部修仁社長(当時)は「(労働生産性を追求する観点から)本来、券売機は必然の道具です。しかし、非常に矛盾に満ちたことではあるけれど、券売機を置かないことで大事にしたいことがあるんですよ」と述べている。
券売機を置くことで「ご注文は何にいたしますか」という接客用語だけでなく、代金の受け渡しという接客行為も減ってしまう。お客と店員が目をあわせなくても、お茶の量が減っていればお茶をつぎ足したり、お客が食後に飲む薬を取り出そうとした場合には水をさっと出したりといったように、客の動きから求められるサービスを察知することが大事だという。また、安部社長は「牛丼を食べる刹那的な時間ではあるけれど、こうした、お客さんとのメンタルなつながりを大事にしていきたい」とも述べている(関連記事:なぜ、「券売機」を置かないのか:吉野家式会計学 3)。
吉野家の広報担当者に尋ねると、現在も券売機を置かない理由には当時の安部社長が掲げた理念も影響しているという。
そうは言っても、店舗の効率化は避けては通れない課題になっている。現在、吉野家ではお客がレジで注文し、出来上がった商品を自分で取りに行く「キャッシュ&キャリー」型店舗を30店近く展開しており、今後もその数を増やす予定だ。
すき家が券売機を導入しない理由
それではすき家はどうだろうか。席数が多くない店舗や一部実験店舗では、券売機を置いているという。ただし、その数はごくわずかで、ほとんどの店舗には設置していない。
券売機を導入しない理由について広報担当者は「(主力である)郊外の店舗には家族連れのお客さまが多く来店するため」と説明する。すき家にとって一番のターゲットであるファミリー層の満足度を上げるためには、店員が接客するのが望ましい。しかも、デザートやドリンクを追加で注文してもらいやすい環境をつくるには、券売機は向かないという判断だ。つまり、ビジネスモデルから必然的に券売機なしというスタイルを導き出したのだ。
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