2018(平成30)年12月28日の新聞紙面に「勤労統計で調査ミス」の記事が掲載された。 従業員500人以上の事業所はすべて調査する必要があるにもかかわらず、東京都では3分の1程度しか調べていなかったというものだ。年金、マイナンバーと不祥事が続く厚生労働省(以下、厚労省)のさらなる不祥事であり、単なるミスではなく、雇用保険や労災保険の支給額にも影響するとなると他人事ではない。 さらに、調査結果は国内総生産(GDP)で物価の動きを示す「GDPデフレーター」でも使われている。重要な統計に影響が出る恐れもある。 なぜこうした不適切な調査が行われたのか、それが私たちの生活にどうかかわるのか、確認しておこう。
毎月勤労統計とは?
まず、基本的なことを確認しておきたい。
厚労省で実施している「毎月勤労統計調査」は何かというと、統計法に基づく政府の基幹統計のひとつである。雇用、給与および労働時間について、全国と都道府県別の変動を毎月明らかにすることを目的としている。調査は都道府県を通して実施され、対象の事業所は厚労省が抽出し、通知される。
結果は、経済指標のひとつとして景気判断や、都道府県の各種政策決定に際しての指針とされるほか、雇用保険や労災保険の給付額を改定する際の資料として使われる。さらに、民間企業等における給与改定や人件費の算定、人事院勧告の資料とされるなど、私たちの生活にも深くかかわる調査といってよい。
国内総生産(GDP)の算出にも使われ、日本の労働事情を表す資料として海外にも紹介されている。調査は前身の「職工賃金毎月調査」「鉱夫賃金毎月調査」を含めると1923(大正12)年に始まり、1990(平成2)年から労働者5人以上の事業所の集計結果について、時系列比較が可能となっている。
東京都分で、全数調査を怠る
この調査は全国で約3万を超える事業所を対象としている。従業員が5人から499人の規模の場合、抽出して実施するが、従業員500人以上の事業所についてはすべて実施するルールになっている。
ところが、厚労省は2004(平成16)年から約15年間にわたって、東京都分における500人以上の事業者約1400のうち、約3分の1にあたる約500事業所だけを抽出してきた。東京都の統計部は厚労省から届いた名簿に従っていたため、結果として賃金が相対的に高い大きな規模の企業の調査数が減ることとなり、賃金額が実態よりも少なくなった可能性が高い。
しかも、厚労省では2018(平成30)年の1月に本来の調査対象数に近づけるようデータを補正していた。この統計システムの変更を公表せずに行ったことから、一部の職員は不適切な調査実態を認識していたことを推測させる。
さらに、厚生労働大臣が不適切な調査が行われていた事実を事務方から報告されたのは2018(平成30)年12月20日だったにもかかわらず、報道発表されたのは翌年1月11日である。つまり、20日間も公表されなかったことになる。前年1月の唐突な調査方法補正の動機も含め、組織的な隠ぺいの有無など、厚労省に対する不信は深まるばかりだ。
過少給付額は約567.5億円にのぼる!
厚労省は2019(平成31)年1月11日、不適切な手法で調査されていた「毎月勤労統計」をもとに給付水準を決めたことで、雇用保険、労災保険、船員保険の過少給付額は約567億5000万円に上ることを公表した。給付額が本来より少なかった人は、延べ約1979万人いたとされる。
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