「本日は休業いたします」── 2019年の正月、近所のスーパーやファミレスの店頭で、こんな張り紙を目にした人も多いのではないだろうか。 平成時代に入って、すっかり当たり前となった小売店や飲食店の正月営業。盆・暮れ・正月も関係なく営業するのはサービス業の宿命でもあるが、ここ最近は少し事情が変わってきている。とくに2018年から今年にかけての年末年始は、スーパーやコンビニ、大手飲食チェーンなどで休業する動きが広まり、ネット上では「あれ、お店やってないよ、困った!」「マジ? 閉まってる」といったつぶやきも……。一方で、店舗の正月休みに賛同する声も意外に多く、便利さに慣れきった消費者も好意的に受け止めているようだ。
とくに深刻な人手不足が続くサービス業界において、優秀な人材を確保するためには雇用・労働環境の改善が欠かせない。厚生労働省の調査によると、飲食・小売業種の有効求人倍率(2018年9月、パートを含む)は2.6倍で、全体平均の1.5倍を大きく上回っている。時給が過去最高水準に上がり、待遇面で差別化を打ち出すのが難しくなる中、いかに働き方を改善できるかがポイントとなる。そこで「ウチの会社は年末年始に休める」という姿勢をアピールすることで、従業員の満足度や企業のイメージアップを図り、将来的な人材確保にもつなげようというわけだ。
二つ目が、少子高齢・人口減少社会の加速や消費行動の変化である。
これまでサービス業は年末年始商戦で売り上げを伸ばすことができたが、少子高齢化・人口減にともなって買い物や外食に出かける人が減少。とくに小売業では、ネット通販の普及・発達によって、正月に営業する必要性も需要も減りつつある。その一方で、従業員の人件費は年々上昇しており、年末年始に営業しても以前のように利益が上がらなくなってきているのだ。
消費者の意識にも変化。365日・24時間営業は本当に必要?
消費者側も「365日・24時間営業は当たり前」という意識から、「正月まで営業する必要があるのか?」という考え方に変わりつつあるようだ。先述したように、ネットの反応では一部で困惑する声もあったが、大半の人が正月休業に好意的な意見を寄せている。
たとえば、筆者がネットでチェックしたコメントを見てみると……
●「デパートは3が日休みでもいいし、スーパーやコンビニも24時間営業じゃなくていいと思う。それはそれで別に困らない」
●「昔は元日に営業している店なんてほとんどなく、お正月の街の光景ものんびりしていた。今の日本人は『走り過ぎ』なのでは」
●「従業員にも家庭や生活がある。年末年始ぐらい家族と一緒にゆっくり休むのが普通」
●「正月営業・深夜営業が当たり前とはいえ、当然そこで働いている人たちもいる。便利さの裏には犠牲もあることを忘れないでほしい」
……など、正月休業に賛同する意見や、働く人たちの負担に配慮する声も多い。
── もちろん、店舗を利用する側、サービスを提供する側、それぞれの立場や事情によって反論もあるだろう。ただ、時代のニーズや価値観は確実に変わりつつある。営業体制や労働環境を見直す企業側の取り組みとともに、便利さに慣れきってしまった私たち生活者も、日本の消費社会や暮らしのあり方について、いま一度考え直す時期にきているかもしれない。
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