店内の複数のカメラで撮影した来店客の顔画像をAI(人工知能)で分析し、店舗運営や業務改善などのマーケティングに活用する小売企業が増加している。 顔画像の撮影・分析は、防犯や本人認証などの目的で以前から行われているが、最近はAIや画像解析技術の進歩によって個々人の追跡が可能になり、来店客一人ひとりの年齢・性別はもちろん、店内での回遊状況や滞在時間、来店履歴などの情報も得られるという。こうしたデータを蓄積して、これまで把握できなかった顧客の傾向・行動を「見える化」することで、業務効率化や売り上げの増加につなげようというわけだ。 ただ、本人を特定できる顔画像は個人情報にあたるため、顧客の感情やプライバシーへの影響を懸念する声も上がっている。賛否両論ある中で、いま急速に広まりつつある「画像分析マーケティング」の可能性と社会的課題について考察する。
そうした点にいちはやく着目し、小売業向けの画像分析サービスを提供しているのが、AIベンチャーの「ABEJA/アベジャ(東京都港区)」だ。同社はAIのディープラーニング(深層学習)により、客の属性認識の精度を高めた画像分析システムを開発。2015年10月よりシステムの提供を開始し、2018年7月現在、先述したパルコヤ・ICI石井スポーツをはじめ、約100社・約520店舗で導入されている。
国は「すみやかに画像消去」などを条件に容認
個人情報の取得にあたる顔画像の利活用について、国は属性分析後の画像消去などを条件に容認する姿勢を示している。
たとえば、経済産業省などが2018年3月に作成した「カメラ画像利活用ガイドブック」では──
●利活用に必要なデータを生成または抽出した後、元となるカメラ画像はすみやかに破棄する。
●顔特徴データ(個人識別符号)やリピートデータは、会員カード情報などとひも付けない。共同利用(法人をまたいだ利用)や第三者提供も行わない。
── との指針を提示。個人情報保護とバランスを取ったうえでの利活用を認めつつ、画像の取り扱いに対して注意を促している。
ABEJAによると、個人情報を保有するのは契約先の店舗になるが、プライバシーとのバランスを慎重に考え、個人情報保護法などを踏まえてシステムを運用しているとのこと。撮影された画像はABEJAのプラットフォームへ暗号化して送信、解析後に消去し、集計した数値データのみを保持・提供しているという。
システムを導入するパルコヤでもプライバシーポリシーや顧客の感情に配慮し、「店内カメラで撮影した画像を解析して、サービスの向上に活用している」とホームページ上に掲載している。
顔画像の無制限な取得は「監視社会」につながる恐れも
一方で、個人情報保護法制の専門家からは、「顔画像の無制限な取得は、監視社会化につながりかねない」と危惧する声も上がっているようだ。たしかに、店内で自分の行動を追跡されたり、来店のリピートをリサーチされるのは、監視されているようで気持ちのいいものではない。実際に活用されているのは「30代・男性」という属性や、「目・鼻・口の位置関係などの特徴」という数値データであっても、やはり自分の顔を撮られることに抵抗を感じる人は多いのではないだろうか。
とはいえ、顔画像の活用によって店舗のサービスや利便性が高まるのであれば、顧客にとっても大きなメリットになる。今後、顔画像活用の一般的な許容度が、時代の流れや技術の進展とともに変わっていく可能性もあるだろう。いずれにしても、プライバシーとの線引きが難しいデリケートな問題だけに、官民でのさらなる議論と適切なルールの整備によって、より透明性・信頼性のある運用を期待したい。
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