店内の複数のカメラで撮影した来店客の顔画像をAI(人工知能)で分析し、店舗運営や業務改善などのマーケティングに活用する小売企業が増加している。 顔画像の撮影・分析は、防犯や本人認証などの目的で以前から行われているが、最近はAIや画像解析技術の進歩によって個々人の追跡が可能になり、来店客一人ひとりの年齢・性別はもちろん、店内での回遊状況や滞在時間、来店履歴などの情報も得られるという。こうしたデータを蓄積して、これまで把握できなかった顧客の傾向・行動を「見える化」することで、業務効率化や売り上げの増加につなげようというわけだ。 ただ、本人を特定できる顔画像は個人情報にあたるため、顧客の感情やプライバシーへの影響を懸念する声も上がっている。賛否両論ある中で、いま急速に広まりつつある「画像分析マーケティング」の可能性と社会的課題について考察する。
現状を数値で把握して課題を抽出、次なる戦略に生かす
2017年11月、東京・上野にオープンした商業施設「PARCO_ya(パルコヤ)」では、テナントの9割にあたる約60店が店内カメラを設置している。撮影した画像をAIで分析し、来店者数や時間別推移、来店客の属性(年齢・性別)や動線などを数値化。得られたデータは各店のパソコンにフィードバックされ、スタッフの人員体制の効率化や、商品ラインナップ・陳列場所の見直しなどに活用されている。
同施設を運営する「パルコ(東京都渋谷区)」によると、現在のところ画像分析による売り上げ増などの顕著な効果はみられないものの、来店客8割の属性が想定したターゲット層(30~50代の女性)と一致していることが確認できたという。狙った層が集客できていれば、次なるアプローチとして「ターゲット層の購買率をいかに高めるか」という新戦略に注力できる。
「画像分析によって現状を的確に把握」⇒「マーケティングの方向性を確認」⇒「そこから課題を抽出して次の戦略を打つ」⇒「その戦略の結果を再び把握」~というサイクルを回していくことで、より顧客ニーズに即した売れる店舗づくりが目指せるというわけだ。
店内の商品レイアウトを最適化して売り上げアップ
登山用品を中心としたアウトドアショップ「ICI石井スポーツ(東京都新宿区)」でも、都内の2店舗で2017年5月~12月に撮影した来店客の画像分析を試験的に実施。これまでは登山用品を「目的買い」する40~50代のヘビーユーザーが多いと見られていたが、画像分析の結果、登山用品をタウンユースする20~30代のライトユーザーも、ほぼ同数来店していることがわかったという。
そこで、フック商品の可視性を高めるために、タウンユースや女性向けのブランド商品を入口付近に並べたところ、20~30代の立ち寄り率が大きく上昇。さらに、売り場に30秒いた客の2割が購入した登山用ザックなどのマグネット商品を、フロアの手前から奥に移動。その結果、手前と奥の回遊率や回遊時間が上昇し、配置をそのままにしていた中央の商品の買い上げ率がアップしたという。店内を奥までまわる客が増加したことで、その間の商品も手に取ってもらう機会が増え、店全体の売り上げが前年比ベースで10%以上伸びたそうだ。
店舗向けの画像分析システムを提供するAIベンチャー
このように、これまで見えなかった顧客の情報を明確な数値で把握し、そのデータから売れる仕組みや課題を導き出すことが、リアル店舗ではますます重要になってきている。深刻な人手不足や消費行動のEC化が進む中、スタッフの経験と勘に頼る従来の店舗運営では、変化するトレンドに対応しつつ、景気にも左右されない店舗づくりを目指すことは難しくなっているのだ。
次のページ国は「すみやかに画像消去」などを条件に容認
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
関連記事
2015.07.17
2009.10.31