今年(2018年)10月6日、83年の歴史に幕を閉じた東京都中央卸売市場「築地市場」。 営業最終日の市場の様子はニュースなどでも大きく報じられ、多くの人たちから閉場を惜しむ声が聞かれました。筆者自身も、築地市場には取材や買い物などで何度か足を運んだことがあり、昭和レトロの面影を残す場内の雰囲気が懐かしく思い出されます。 そして同月11日、築地から移転した豊洲市場が営業をスタート。昭和・平成の築地ブランドを受け継ぎ、次なる時代の豊洲ブランドを築くべく、市場関係者らのチャレンジがすでに始まっています。そこで今回は、昭和初期から日本の台所を支え続けた築地市場の歩みとともに、新天地で始動した豊洲市場の特徴や、今後の展開について見ていくことにしましょう。
とはいえ、市場の施設は流通環境の変化に対応できず、時代に合わなくなっていたのも事実です。手狭な荷さばき所や駐車場は慢性的に混雑し、あちこちで老朽化が進んだ建物は、火事や地震など災害への懸念も指摘されていました。古き良き昭和の風情が魅力とはいえ、近代の現役市場としての機能は、もはや限界に達しつつあったのかもしれません。2001年に市場の豊洲移転が決定した後、土壌汚染問題や反対運動などで当初の予定より2年ほど遅れましたが、築地市場は2018年10月6日をもって83年にわたる営業を終了。約800の仲卸業者や飲食店の大半が、移転先の豊洲市場に引っ越していきました。
ちなみに、今回移転したのは主にプロの買い付け人が利用する「場内」と呼ばれるエリアで、一般客が気軽に利用できる市場北側の「場外」エリアは、引き続き築地で営業を続けています。
時代のニーズに対応する近代施設を整備した豊洲市場
そして、築地閉場から5日後の10月11日、東京都が約5700億円かけて整備した中央卸売市場「豊洲市場」(東京都江東区)が開場しました。広さは築地市場の1.7倍となる40.7ヘクタール。敷地内には水産仲卸売場棟、水産卸売場棟、青果棟などの近代的なビルが立ち並び、築地にはなかった加工パッケージ棟(魚類の調理~パック詰めまでできる加工工場)や、他市場への転配送に対応する施設も新設されました。
また、築地市場は平面構造で外気の入る「開放型」の施設でしたが、豊洲市場は立体構造で外気を遮断した「閉鎖型」の施設となっており、館内の温度管理・衛生管理を徹底。年間を通して館内を10.5~25℃に保ち、生産から消費までを低温に保つ「コールドチェーン」に対応しています。さらに、各施設は食品衛生管理の国際基準「HACCP(ハサップ)※」の認証取得が可能な施設として設計されており、市場関係者らも本格的な輸出拠点化に向けた事業展開を視野に、海外マーケット進出の拡大を狙っています。
※HACCP(ハサップ):欧米への食品輸出に必要となる食品衛生管理の国際基準。2018年6月に成立した改正食品衛生法では、HACCPの導入を食品事業者に義務づけています。
伝統の継承とともに、自らのブランド構築と進化を目指して
先述したように、ここ近年、加工食品の輸入や産直・ネット販売などで市場離れが進行し、かつての築地市場では取引量が大幅に減少。全国各地の卸売市場でも、施設の統合・廃止が年々進んでいます。いまや卸売市場は時代に合った姿を目指さなければ、さらなる縮小は避けられなくなっているのです。そうした状況の中で、食品加工や輸出拠点化を見据えた豊洲市場の取り組みは、卸売市場の新たなビジネスモデルになるとして、国や都も大きな期待を寄せています。
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